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がん特集  緩和ケア

Webマガジン:がん特集では、がんに関するさまざまな知識を、自分や家族の為に知っておきたい医学知識という視点でお伝えしています。これまで、がん全般の統計・疫学情報、がんの発生原因や予防法、がんの早期発見に欠かせないがん検診について、また、各部位別のがんについて細かく専門的な知識をお伝えしてきました。Part.10の今回は、緩和ケアについてです。


Webマガジン 『がん特集』Part.10緩和ケア 日本医科大学付属病院緩和ケア部長 中西 一浩

人は誰でも、苦痛のない、その人らしい生活を送りたいと考えます。「緩和ケア」という医療は、主にがんによって生じる身体的な痛みや社会的な苦悩を和らげ、患者さんが苦痛から解放された穏やかな生活を送るための医療です。以前はホスピスや緩和ケア病棟を中心に行われていた緩和ケア。最近では外来や在宅でも提供され、がん以外の病気に対しても行われるようになってきました。今回のWebマガジンでは、高齢化に伴うがん患者数の増加とともに、今後ますます必要とされる緩和ケアについて、日本医科大学付属病院緩和ケア科部長の中西 一浩(なかにし かずひろ)先生に、お話をお伺いました。

緩和ケアの歴史について

ホスピスの起源現在、ターミナルケア、もしくは終末期医療とよばれる行為を行う施設をホスピスと言います。ホスピスとはもともとは中世ヨーロッパにおける、旅の巡礼者を宿泊させる修道院や小さな教会を指していました。こうした修道院は、戦時中に傷ついた人々にとっての安息の診療所として機能し、またそこではいかなる宗派・信条をも問われなかったといいます。

近年になり、このようなホスピスケアの考えを受け継ぐ運動が世界中で広がりました。国や社会の違いを超えて人の死に向かう過程に焦点をあて、 患者に対する積極的な全人的ケアを行いましょう、という考え方です。そのような中で、ホスピスケアの考えを継ぐ「緩和ケア」という概念が1970年代に初めてカナダで提唱されました。緩和ケアは当初はがんの終末期に対してのみ行われていましたが、その後、緩和医療の進歩とともにがんの終末期だけでなく、その診断初期から、積極的治療と並行して行うべきであるという考えが広まりました。さらに、近年ではがん以外の疾患に対しても緩和ケアが行われることもあります。これらの流れの中で、2002年にはWHO(世界保健機構)が緩和ケアの概念を定式化しました。

WHOによると、緩和ケアとは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、QOL(生活の質)を改善するためのアプローチ」である、と定義しています。さらに、この定義文に続いて次のように、緩和ケアの目的について詳細に記しています。

  1. 痛みやその他の苦痛な症状から解放する。
  2. 生命(人生)を尊重し、死ぬことをごく自然な過程であると認める
  3. 死を早めたり、引き延ばしたりしない
  4. 患者のためにケアの心理的、霊的側面を統合する
  5. 死を迎えるまで患者が人生をできる限り積極的に生きてゆけるように支える
  6. 患者の家族が、患者が病気のさなかや死別後に、生活に適応できるように支える
  7. 患者と家族のニーズを満たすためにチームアプローチを適用し、必要であれば、死別後の家族らのカウンセリングも行う
  8. QOL(人生の質、生活の質)を高めて、病気の過程に良い影響を与える
  9. 病気の早い段階にも適用する。延命を目指すそのほかの治療(例えば化学療法、放射線療法など)を行っている段階でも、それに加えて行ってよいものである。臨床上の様々な困難をより深く理解し管理するために必要な調査を含んでいる

緩和ケア:イラストこのように、緩和ケアでは、まず現在の治療の目的を認識し、患者さんの今後の見通しをたてた上で、患者さんが何に困っているかの見極めをおこなう必要があります。その上で、患者さんの心や体の苦痛を緩和することにより、病状に応じた生活の質(QOL)や、その人らしさを大切にすることが大切です。

また、緩和ケアというと、対象疾患としてはがんが一般的ですが、がん以外の疾患でも緩和ケアを受けることは可能です。WHOの緩和ケアの定義文にもあるように、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者」、つまり、心不全、COPD、後天性免疫不全症候群などの患者さんとその家族も対象となるのです。

緩和ケアを受ける時期について

緩和ケアを受けるタイミングに関しては、緩和ケアは「がん治療ができなくなったひとへの医療」あるいは「がんの終末期に受けるもの」と思っている方も少なくありません。しかし、実際は、緩和ケアというのは、がん治療の初期の段階から、がんの治療と並行して受けることができる医療なのです。(図1)

本来、緩和ケアは、患者さんの体や心のつらさを和らげ、生活やその人らしさを大切にする考え方です。ですから、がんの病状によって緩和ケアを受ける、受けない、を決めるというものではありません。実際には、ほとんどの方は治療に伴う副作用や痛み、今後に対する不安、などのつらい症状をできるだけ少なくして過ごしたいと考えています。

たとえば、がんと診断されたときには、ひどく落ち込んだり、眠れないこともあるかもしれません。また、抗がん剤や放射線治療によって食欲がなくなったり、吐き気などの副作用が起こることもあります。さらに、がんに伴う痛みはがんの早い時期であっても、進んだ時期であっても見られる症状です。痛みが強いままではがんの治療もつらく、また生活への影響も大きくなってしまいます。

このように、がんのどの時期であっても、適切な治療やケアを受けることが生活を守り、自分らしさを保つことにつながります。緩和ケアは患者さんの病状や時期に関わらず、受けることができるのです。

包括的がん医療モデルについて 世界保健機関:武田文和がんの痛みからの開放とバリアティブ・ケア

緩和ケアを受ける方法について

それでは緩和ケアを受けるにはどうしたらよいのでしょうか?以前ですと、緩和ケアというのは、ホスピスや緩和ケア病棟でしか受けられない、と考えられていました。しかし最近では、当院のような大学附属病院、また一般病院や在宅(訪問医療など)でも緩和ケアが受けられるようになってきました。

緩和ケアを受ける際の一般的なプロセスについてですが、緩和ケアは、前述した通り、がんの病期や病状とは関係なく、患者さん自身が、体や心のつらさを自覚した時点から受けることが可能です。通常であれば、外来あるいは入院中の主治医が、緩和ケアを受ける必要性があると判断した時点で、緩和ケア科への受診を勧めるはずです。

その後、患者さんが緩和ケア科を受診されますと、外来通院中であれば緩和ケア科外来にて、また入院中であれば病室にて、緩和ケアチームが診療を行います。緩和ケアチームは、患者さんの身体あるいは心の辛さの評価を行った後、適切な治療を開始します。さらに、療養上における不安や悩みなどの様々な心配事に対しては、緩和ケア認定看護師や、がん専門看護師などの専門看護師、また医療社会福祉士が対応します。

一方、患者さんご自身あるいはご家族の方から、緩和ケアを希望される場合もあります。その場合は、まずは現在の主治医、もしくはかかりつけ医にご相談ください。 相談できる医師がいない場合は、県または地域の「がん相談支援センター(がん診療連携拠点病院)」に相談してみるのもよいでしょう。当院は、東京都区東北部のがん診療連携拠点病院として指定を受けており、がん診療センター内に「がん相談支援センター ふれあい相談室」という部署があります。「ふれあい相談室」では、緩和ケアを含めたがん全般に関するご相談に関して、がん専門看護師とソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士)がお受けしています。御気軽に、03-5814-6749(直通)またはE-mail; fureal@nms.ac.jpまでご連絡下さい。

緩和ケアの診療体制

チーム医療 医師、看護師、医療介護技術員、栄養士、医療ソーシャルワーカー、ボランティア、保育士、心理療法士、リハビリテーション、薬剤師現在、緩和ケアは、医師がひとりで実施するのではなく、他の職種とともに「チーム」で行います。施設によって差はありますが、たとえば当院の緩和ケアチームの場合は、痛みなどの身体症状の緩和を専門とする医師6名(専従1名、兼任5名)精神症状の緩和を専門とする精神神経科医師1名(専任)緩和ケア認定看護師1名(専従)、がん専門看護師1名(兼任)、緩和薬療法認定薬剤師1名(兼任)がひとつのチームを構成して緩和ケアを実施しています。さらに、ふれあい相談室のソーシャルワーカー(医療社会福祉士)理学療法士栄養士などが患者さんのニーズに対応していきます。また大切なことは、ケアを受けられる「患者さん」もチーム医療の一員である、ということです(図2)。

緩和ケアを受ける施設について

ホスピスの分類 1.病院内病棟型 2.病院内独立型 3.病院内緩和ケアチーム 4.在宅ホスピス 5.完全独立型緩和ケアが受けられる施設としては、前述したように、ホスピスや緩和ケア病棟のほか、最近では外来や在宅でも緩和ケアを受けられるようになってきました。

ホスピスにおける緩和ケア

ホスピスというところは、自らの意思と選択にもとづいて、最後の時までを少しでも快適に生き、その結果として、安らかな尊厳に満ちた死を迎えたいと自ら望む、末期のがん患者さんをサポートする施設を指します。ホスピスと一般病棟との大きな違いは、ホスピスでは検査や治療など症状の改善を中心に考えるのではなく、身体の痛みや身体のだるさ、辛さ、といった患者さんが不快に感じることを最大限に減らすことを優先においています。

ホスピスでは治療や検査がまったくないというわけではありませんが、病院側からの一方的な押し付けなどはなく、十分な説明と患者さんの納得があった上で受けることができます。一般的にはホスピスは、主に図3の5種類に分類することができます。主治医とよく相談し、患者さんやご家族の希望に合わせたケアの方法を検討することが大切です。

ちなみに、当院においては、末期の患者さんの自らの意思と選択を尊重して、病院内の緩和ケアチームが主治医と恊働で終末期医療(ターミナルケア)を提供しております。また、ご希望があれば、ホスピスケアを提供可能な、他の施設への紹介も行っています。

外来における緩和ケア

最近は、外来においても「緩和ケア外来」として、緩和ケアを受けることが可能になってきました。緩和ケア外来では、通院中の患者さんに対して、院内の緩和ケアチームが外来でケアを実施します。多くの場合、入院中に緩和ケアチームの診療を受けていた患者さんが、退院後に引き続き緩和ケア外来で診療を受けることになります。

がんの治療が一段落しても、痛みやだるさが残っていたり、病状や生活について不安が生じることもあります。緩和ケア外来を受診することで、こうした苦痛を軽減することができます。

在宅における緩和ケア

以前、一般の方を対象として、「死期が迫っていると告げられた場合にどのような療養の場を希望しますか?」というアンケートを実施したことがあります。結果を見ると、やはり多くの方が自宅での療養を希望していました。自宅は、 多くの患者さんにとって安心でリラックスすることができる療養環境です。病院で受けている治療を自宅で継続することは難しい、と考える方も多いと思いますが、現在では体の状態が安定していれば、自宅での療養は難しいことではありません。緩和ケアで行われる治療のほとんどは、病院でも自宅でも同じように行うことができるのです。

希望する療養場所は変化する。Q:医療生活は最後までどこで送りたいですか? 63%自宅、18%緩和ケア病棟、9%今まで通った病院、3%がんセンター、死期が迫ると以下のよう変化する。11%自宅、47%緩和ケア病棟、32%今まで通った病院、3%がんセンター、

最近では緩和ケアに関連する治療の多くは、自宅でも入院中と同じように行うことができます。治療内容は、飲み薬による治療ばかりでなく、注射による治療のためのポンプや、点滴などの処置が必要な場合でも、自宅で継続できるようになってきています。実際には、在宅療養についての専門的な知識を持った訪問診療医(かかりつけ医)や訪問看護師、薬剤師、ホームヘルパーが多職種で連携してサポート態勢を整えるため、自宅でも緩和ケアを受けることが可能になるのです。また、今まで病院に受診や通院したことがない初診の患者さんであっても、在宅療養支援診療所などでは十分な診療体制で対応することができます。

自宅に戻れば、生活のペースは患者さんや家族に合わせることが可能になります。訪問診療医や訪問看護師は、患者さんの生活のペースを守りながら緩和ケアを提供します。また自宅だけでなく、介護施設やグループハウスなど、ホスピスや病院以外のさまざまな場所でも在宅緩和ケアを受けることができます。

ただし、自宅での緩和ケアを選択したからといって、病院とのつながりが完全になくなるわけではありません。訪問診療医を通じて病院の担当医や緩和ケアチームと連携を継続し、必要に応じて適切な治療やアドバイスを受けることができます。このように、最近では病院と自宅、訪問診療医が互いにうまく連携を行うことで、在宅での緩和ケアが可能となってきました。しかし、安心して自宅における緩和ケアを受けるためには、事前に訪問診療医や訪問看護師などと連絡を取り、療養の目的や希望について十分に話し合い、不安を少なくしておくことが大切です。

緩和ケアの対象となる苦痛について

緩和ケアの対象となる苦痛、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、霊的苦痛があります。がん患者さんは、さまざまな苦痛を抱えています(図5)。たとえば体の痛み、吐き気などの身体的苦痛や、不安、いらだちなどの精神的苦痛。また経済的問題、家庭内の問題などの社会的苦痛に加え、死への恐怖や自責の念などの霊的(スピリチャル)な苦痛も抱えます。緩和ケアでは、これらの苦痛を取り除き、一日でも長く、患者さんに穏やかに過ごしてもらうことを目的としています。

痛みの治療で最初に使われるのは、ロキソニンやボルタレンの商品名で知られる「非スロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)」、もしくはやアセトアミノフェンなどの「非麻薬系鎮痛薬」になります。しかし、それらの薬で痛みの除去が難しい場合は、モルヒネに代表される「医療用麻薬」を使用します(図6)。

医療用麻薬には、飲み薬、テープのような貼付剤、坐薬、注射薬などがあり、患者さんの痛みの程度や体の状態によって使い分けます。使い方としては、最初は少量からはじめ、痛みが取れるまで徐々に使用量を増やしていきます。さらに、突発的に襲ってくる痛みに対しては、鎮痛効果が速やかに現れる医療用麻薬をその都度使用していただきます。一方、医療用麻薬には吐き気や便秘などの副作用があります。そのため、必ず吐き気止めや下剤を一緒に服用することが大事です。ただし吐き気は数週間で消失するので、吐き気がなくなった後は、吐き気止めを飲む必要性はありません。

図6:緩和ケアで用いられる治療薬(製品)。非ステロイド家消炎鎮痛剤、ロキソニン、ボルタレン、インダシンなど、非麻薬系鎮痛剤のアセトアミノフェン、ピリナジン、カロナール、医療用麻薬のコデイン、トラマール、MSコンチン、オキシコンチン、フェントステープなどしかし残念ながら、医療用麻薬はあらゆる痛みに対して「万能」というわけではなく、痛みの種類によっては効きにくい痛みがあることです。ここで難しいのは、痛みに応じて使用量を増やしていくことで、効果があまりないにもかかわらず、眠気などの副作用が強くなってしまうケースがあることです。この場合、痛みを取ることを優先すれば、使用量を増やさざるを得ないので、患者さんは副作用によって一日中寝たきりになってしまいます。その結果、その人らしさを保つこと、普通の生活を送ることができなくなります。しかし、逆に眠気をとることを優先すると、医療用麻薬の使用量を減らさざるを得ず、その結果、患者さんは痛みから解放されません。薬を増やしたときと同様に、患者さんは、本来のその人らしさを失うことになります。

治療の現場では、このように、とても難しい選択を迫られることがあります。そのような時は、我々としては患者さんに現状をすべてお話しした上で、最終的にはご本人の意思、希望に沿った治療法を選択することになります。

ちなみに私どもの施設では、神経ブロック療法を積極的に導入しています。神経ブロック療法という治療法の長所は、全身への影響が少なく、かつ医療用麻薬の使用量を大幅に削減できる点です。上記のように、医療用麻薬による副作用が強くなってきた場合、神経ブロック療法の適応の可否を検討すべきだと思います。

がん患者さんにみられる心理的反応について

イラスト:心理的反応通常患者さんは、がんであることを告げられると、衝撃を受けます。その後、次第に衝撃からは回復しますが、一部の患者さんでは衝撃が続くことがあります。また患者さんが持っている情報が不確実または不十分であると、不安な気持ちが助長されます。

闘病生活によって職場や家庭内での役割を失うこと、活動範囲が制限されることのほうが辛い、と訴える患者さんも少なくありません。これが「がんになった者でないとわからない」社会的疎外感になりえます。

さらに、一部の患者さんは再発を経験しますが、その時の心理的反応は、がんに関する知識が豊富になっていることもあり、がんの診断時よりも深刻です。

図7:神経ブロックの種類。腹腔神経叢ブロック(内情神経ブロック)、星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、くも膜下ブロック、助間神経ブロック、神経根ブロック、経仙骨孔ブロック、付帯神経ブロックしかし大事なことは、仮にがんと診断されたり、治療が無効であった場合でも、その時点での達成可能な希望を維持しつつ、人生における課題の優先順位を変更するなど、多くの重要な選択について考える事です。また痛みをはじめとする諸症状は、緩和できることを知っていただきたいと思います。われわれ医療従事者も患者さんと共に闘病生活を支えたいと考えています。患者さんには、それぞれが抱えられている疎外感、孤立感、落胆、不安などの感情をどんどんわれわれ医療従事者に向けて表に出してもらえれると良いと思います。

小児における緩和ケアについて

イラスト:小児のケア残念ながら、がんという病気は大人だけでなく、子供をも襲う病気です。一方、成人と比べると小児がんの患者数は絶対的に少ないため、緩和ケアの質の向上のための医療技術の習得や、緩和ケア提供システムの確立が困難であり、現在も立ち遅れているのが現状です。

小児がんと成人がんの間では共通する部分も多くあります。しかし、幾つかの点では大きく異なり、配慮が必要です。

イラスト:子供の対格差一つは、疾病構造が小児がんと成人がんでは異なるということです。小児がんの疾病は多様であり、また体重が数kgの子もいれば100kgの子供たちもいますので、薬物の選択・使い方などには細心の注意が必要になります。さらに、がんが治癒したとしても、強力な治療に伴う合併症の問題があります。また、成長発達期の治療による合併症(発育・発達障害、内分泌障害、臓器障害など)への対応も必要です。小児がんでは成人がんとは異なる取り組みが必要なのです。

小児といっても、各年齢により体格も違えば、発達段階も異なります。当然、自分の置かれた状況や、子供なりの死に対する捉え方も異なります。そのため、倫理的問題として、子供にとっての最善の利益や子供の意向、子供の自律をどのように尊重していくべきか、については大人の緩和ケアとは大きく異なり、配慮が必要です。さらに、延命治療の差し控えをどのように考えていくべきか、なども小児における特有の問題点としてあります。世界的には、1998年に「ヘルスケアに対する子供の権利に関する世界オタワ宣言」が発表され、そこでは、子供も大人同様、人としての権利と尊厳を持ち、「医療を受ける権利」と「自分の病気について年齢や理解度に応じた方法で説明を受け、選択する権利」があるとされています。

他にも、大人と子供の違いについては、子供の場合、遊びや学びの機会・場所の設定への配慮が必要であり、緩和ケアにおいて配慮すべき重要な要素になっています。そして家族は、単に病気の子供を持つ親というだけではなくて、主たる介護者としての役割、保護者としての意思決定を行わなければならない役割を担っています。そのような重い役割を背負っている家族を様々な面からサポートするのも、緩和ケアの重要な要素です。

イラスト:小児さらに、子供を亡くした死別体験は、死別後の有病率、うつなどの精神症状の発症、あるいは夫婦間の関係に影響を及ぼします。緩和ケアでは、死別後の親の方々に対する心のケアにも十分配慮する必要があるのです。

ちなみに欧米では、1980年代から子どもの緩和ケアの理念が認知され始め、現在では多くの国々で子どもに対して様々な緩和ケアサービスが実践されています。 具体的には、自宅で過ごしている子どもへの在宅医療や、「子どものホスピス」におけるレスパイトケア(家族が休息をとるための一時預かり)、また療養場所を問わず提供される苦痛を和らげるための医療・ケア、などがあげられます。それぞれの分野を担当する医療チームが有機的につながり、一人ひとりの子どもと家族を支えています。

イラスト:子供の手一方で、我が国では子どもに対して緩和ケアを実践している施設は多くありません。また現状では各施設が個々の努力によって個別に活動している状況が続いています。我が国にも余命が限られた疾患を持つ子どもがいて、その家族がいます。そして将来への不安を抱えながら日々を過ごしています。子どもに対して適切に緩和ケアが提供される体制の構築は、子どもを安心して生み育てることができる活力に満ちた社会を実現するための方策として極めて大切なのです。そのためには、我が国でも一日でも早く、子供に対する緩和ケアの仕組みを築かなければならないと思います。
(この記事は2012年6月取材時点の情報です)

日本医科大学付属病院教授・日本医科大学付属病院緩和ケア部長 中西一浩教授

 

 

プロフィール

中西 一浩

 

こちらの記事は「意気健康 03冬春号」のがん特集に掲載されたものです。