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学校法人日本医科大学

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がん特集  放射線治療

タイトル:パート11放射線治療

「放射線治療」というとどのような治療をイメージするでしょうか?「放射線治療は目に見えないから危険」、「放射能と同じじゃないの」などと思っていませんか?とくに昨年の原発事故以降は放射線という言葉自体に不安感をもたれる方も多いかと思います。しかし医療の世界では、放射線治療は近年もっとも技術革新が進み、同時に安全性への配慮が行き届いた、現在のがん治療において欠かせない治療法のひとつとなっています。そこで、今回のWebマガジンでは、今後ますますがん治療の中心的存在となることが予想される放射線治療について、日本医科大学付属病院放射線治療科部長の宮下 次廣(みやした つぐひろ)先生に、お話を伺いました。

放射線治療のメカニズム

放射線治療イメージ放射線治療で使われている主な放射線は電磁波であるエックス線とガンマ線、粒子線である電子線、ベータ線、陽子線、重粒子線などがあります。ガンマ線とベータ線は放射性同位元素から発生しますが、その他は直線加速器などで人工的に発生させて使用します。

放射線治療では、がん細胞に対してこれらの放射線を照射することで、がん細胞の中にあるDNAを壊し、がん細胞を死滅させます。がん細胞の特徴は細胞分裂を無制限に繰り返すことですが、分裂中の細胞は放射線に影響されやすいため、放射線はがん細胞に効果があるのです。一方で正常細胞の場合は、仮に放射線が当たりDNAが損傷しても、自ら修復する力があります。そのため、放射線は、がん細胞に良く効く一方で、正常細胞にはあまり悪さをしないのです。

さらに近年の治療技術や画像診断技術の発展により、正常細胞を放射線照射から保護することが可能になりました。このように、がん細胞と正常細胞の特性の違いを利用するとともに、がん細胞だけにフォーカスした照射技術が進歩したことにより、がんに対する放射線の治療成績は大きく向上しました。以前に比べると、がん細胞だけに大量の放射線を当てることが出来るようになってきたのです。

放射線を用いた治療方法の種類

イメージ:外部照射装置放射線を用いた治療方法には、主に二通りあります。一つは「外部照射法」と言って、もっとも一般的に実施されている方法です。これは、文字通り患者さんの外部から、治療機器を用いて放射線を照射する方法です。治療は放射線治療室で行われ、照射回数はがんの種類や患者さんの状態にもよりますが、週5回程度の照射を長いときは2か月おこないます。また、毎日の治療では、常に同じ場所に照射することが大切であり、特に頭部や頚部のがんなどに対しては毎回一定の体位を保つことができる「固定具」を用いることがあります。治療計画(部位や方向、量や回数など)は、CTなどの画像診断を利用して放射線治療専門医が立案します。治療計画によって照射方法などが決まると、患者さんの皮膚や固定具にマーキングをして、それを目標に放射線照射を行います。実際の照射は診療放射線技師により行われ、1回の照射は10分位で終了します。

前立腺がんの密封小線源治療

二つ目の放射線治療の方法は「(密封)小線源治療」と呼ばれ、数ミリの粒状の容器に密封された放射性物質(放射性同位元素)を患者さんの体内に挿入して、内部から放射線を照射します。「密封小線源治療」には、放射線源を直接組織内に挿入する「組織内照射」と、膣や食道など管腔構造に挿入する「腔内照射法」があります。組織内照射は乳がんや前立腺がんなどに行われ、腔内照射は子宮がんや肺(気管支)がん、食道がんなどに行われます。

放射線治療の対象となるがん

一般的に、がんの治療方法としては、手術、抗がん剤、放射線の3つの治療法が大きな役割を占めています。それぞれ、がんの場所やがんの進行具合によって得意、不得意があります。放射線治療と手術は局所を対象とした治療です。一方、化学療法は抗がん剤を注射や点滴あるいは服用することで全身に投与する全身療法となります。

頭頚部のがん

頭頸部用固定具 放射線治療が得意とするもののひとつに、頭頚部領域のがんがあります。たとえば喉頭がんでは、手術では声帯を取り除くため、手術後に発声機能が失われてしまいます。一方、放射線治療では、手術と違い、臓器の形態や機能をそのまま残せる、と言う大きなメリットがあります。そのため、喉頭がんの治療では、早期のものは放射線治療を行い、発声機能を温存するようにします。そして放射線治療では治癒が難しい進行がんの場合に、手術を行います。

肺がん

肺がんも放射線治療の対象となります。ですが、早期の非小細胞肺がんでは、通常は手術が優先されます。一方、他の臓器に転移がある場合には主に化学療法が行われます。その中間のステージである、手術ができないが遠隔転移の無い場合に放射線治療が行われます。また最近では、化学療法と放射線治療を併用する「化学放射線療法」がしばしば行われています。それによって、生存期間がかなり延長することが分かってきました。併用の目的としては、両者を用いることで、局所のがん治療に対して相乗効果をもたらすことに加えて、化学療法によって、検査では検出できない転移を制御できるため、と考えられています。化学放射線療法は、非小細胞肺がん以外にも、遠隔転移のない小細胞肺がん、頭頚部領域のがん、食道、膵臓、大腸、肛門のがん、そして子宮頸がんにも効果があることが分かっています。

子宮頸がん

放射線治療は、子宮頸がんにも効果があります。わが国では早期の子宮頸がんでは手術が優先されますが、手術では治癒が期待できない、ある程度進行した場合に放射線治療が行われています。欧米では、早期の子宮頸がんに対しても、手術ではなくて放射線治療が優先されています。日本では、歴史的に手術技術が高かったこともあり、早期例には手術が優先されてきましたが、最近では日本でも放射線治療を行うことが増えています。

手術と放射線治療を比べると、手術の良いところは、短期間で終了することです。通常、手術は1日で終わります。一方、放射線治療は数十回に分けて行うので、時間がかかります。しかし放射線治療の良いところは、物理的に組織を切らないため、体への負担が少ないこと、がんの周辺組織の機能や形態を温存できること、そして手術が難しい進行した状態でも、放射線であれば対応できることが多い点です。また、手術と放射線治療の治療成績を直接比べることは難しいのですが、いろいろな報告を比較すると、早期子宮頸がんの生存率はほぼ同じ、という結果が出ています。そのため、今後は早期がんであっても放射線治療が選択される機会が増えることが考えられます。ちなみに子宮頸がんでは、外部照射法と密封小線源療法を組み合わせて治療を行います。

前立腺がん

挿入された小線源のX線写真前立腺がんも、放射線治療が多く行われる治療です。前立腺がんは欧米では男性において最も罹患率が高いがんになっており、日本でもこの20年あまり非常に増加しています。特に近年検診でPSA検査が普及してきたため、無症状でも早期に発見される方が増えています。前立腺は、場所的に膀胱など泌尿器系臓器や神経が多い場所であるため、手術による後遺症の可能性は常に気をつける必要があります。一方、放射線治療では、手術に比べると時間はかかりますが、周辺組織を傷つけるなどの後遺症の問題は少ないと言えます。通常、放射線治療では、外部照射の場合、毎日の照射を6〜8週間続ける必要がありますが、これは外来で通院しながら受けることが可能です。当院の患者さんでも多くの方は仕事をされながら通院しています。また、どうしても通院が難しい方には、密封小線源療法を行います。この場合、前立腺の中に、米粒大の「シード」と言われる放射線源を数十個埋め込み、永久挿入を行います。埋め込みに必要な手術は通常1〜2時間で終了し、入院も2泊程度で済み、その後通院はほとんど必要ありません。放射線はもちろん外部には漏れませんし、埋め込んだ周辺にしか当たらないので、目的とする前立腺だけを治療でき、周辺臓器には害はありません。この方法は、特に早期で悪性度の低い前立腺がんに効果があります。子宮頸がんと同様に、病期による違いはありますが、前立腺がんにおいても手術と放射線治療との間で、生存率の差はほとんどないことが分かっています。

乳がん

乳がんも放射線が良く効くがんの一つです。乳がんは近年女性の罹患率では胃がんを抜いて第一位になっており、若年層をはじめとして非常に増えています。また、以前はがん部分を含めて乳房全体を手術で切除していましたが、現在では手術の6割は、がん部分のみを摘出して乳房は温存する「乳房温存療法」が行われています。乳房温存療法の場合は、手術後の再発を減らす目的で必ず外部照射による放射線治療を行います。以前は5、6週間かかっていましたが、現在では半分程度の期間で済んでいます。乳房を全摘する方法と、乳房温存手術に放射線を組み合わせる方法とを比べると、早期乳がんにおける治療成績は変わらないことが分かっています。乳房温存療法によって、患者さんは肉体的負担のみならず、精神的ダメージもかなり軽減されます。

その他

他にも、脳腫瘍、食道がん、悪性リンパ腫などで、放射線治療は手術や化学療法と併用して行われています。本院の特徴として、悪性腫瘍である「がん」以外の良性疾患にも放射線治療を行っていることでしょう。特に傷痕などから発生するケロイドの治療では、わが国で唯一の総合的治療を行う施設となっています。

緩和治療

治すための治療だけでなく、進行したがんの症状緩和のためにも放射線治療は広く行われています。特に、骨転移による激しい痛みや、転移性脳腫瘍の辛い症状を持つ多くの患者さんの症状を緩和し、生活の質(QOL)の改善に役立っています。

副作用について

それでは、放射線治療による副作用にはどのようなものがあるでしょうか?まず、照射している部位の周辺におこる変化としては、皮膚に日焼けのような症状が出ます。皮膚が赤や茶色くなり、ひりひりする感覚が生じます。ただし、痛みやかゆみはほとんどありません。そして、自覚症状が出やすいのが粘膜です。粘膜は鼻や口の中から始まり、ノド、食道、消化管と続きますが、粘膜炎、食道炎、胃腸炎と言った一時的な炎症をおこします。その症状は頭頸部では乾燥感やタダレによる痛み、食道ではものを飲み込む時の痛み・つかえ感、胃腸では消化不良や下痢が主なものです。回復には照射終了後一ヶ月程度の時間がかかります。
副作用他の副作用としては、疲れやすい、食欲が低下する等の自覚症状が出現することもあります。白血球数や血小板の低下が見られることもあります。しかし、副作用に対しては対処法が確立されており、当院ではほとんどの患者さんが、治療を中止することなく続けられています。
放射線治療が終わった後に起こる副作用も多くはありませんが時々見られます。肺に広い範囲照射されると、放射線肺炎が数か月後に起こることがあります。空咳や熱が続きます。早めに適切な治療が必要です。子宮がんや前立腺がんで骨盤部に放射線治療を受けた方に、半年から2年ほどして起こる直腸出血も時々みられます。治療を受けたことをほとんど忘れてから起こるため注意しなければなりません。血便がみられますが痛みなどを伴わないため、見過ごされがちです。これも早めに治療しないと貧血になって初めて気付くこともあり、こじらせると長期間の治療が必要になります。

治療の流れ

放射線治療の流れとしましては、たとえば人間ドックなどの検診でがんが見つかった場合は、検診を実施した施設から連携病院などを経て当院に紹介される方もいます。また時には検診施設から直接来院される方もいます。さらに当院では、荒川区、足立区、葛飾区の検診施設からは、がんの疑いがある方が直接受診していただけるシステムを構築しています。当院は厚生労働省から「がん診療連携拠点病院」に指定されており、地域におけるがん医療の拠点なのです。

キャンサーボード当院に来院されてからは、基本的にはまず各々の診療科を経て、治療プロセスにおいて必要な時期に放射線治療を行います。たとえば乳がんでは標準治療のプロトコール(規定)がありますので、それに従って放射線治療を行います。ただし、がんが進行していて、治療方針に複数の可能性がある場合や、標準治療が確立されていない希少な疾患などにおいては、単独の診療科だけでなく、他部門が集まって方針を議論する「キャンサーボード」という会議がありますので、そこで検討します。

また、当科に直接紹介される患者さんもいらっしゃいますが、そのような場合は、たとえ当初は放射線治療を目的として紹介されてきても、検討の結果、手術の方が良いということもあります。そのようなときは、患者さんにご説明をさせていただきます。ただし、治療方針は最終的には患者さんが決定されることで、なかには「手術は絶対やりたくない」という方もいますので、そのような場合は次善の策であっても放射線治療を行う、ということもあります。いずれにしましても、がんの治療は手術、化学療法、放射線の組み合わせが大事です。また多くの疾患で標準的治療の指針を示した「治療ガイドライン」が作成されていますので、多くの場合はそれに沿って、治療は進むことになります。

医療機関を決める際の目安

がん医療の均てん化現在は、国の方針もあり、全国どこでも標準的ながん診療を受けられる方向性、すなわち、「がん医療の均てん化」が進んでいます。病気の種類によっての多少の得手不得手はあるでしょうけれど、基本的にはがん医療に関しては、どの施設でも大きな差はないはずです。ですから、患者さん自身が、さまざまな要素を考慮した上で納得のいく病院に行かれるのが良いと思います。また、医師などの医療関係者は、地域の連携状況などを把握していますので、医療者の意見を参考にするのも良いと思います。ちなみに当院には北海道から沖縄まで日本全国から、さらには米国からも治療を受けにこられます。口コミやそれぞれの病気の友の会なども情報源になっているようです。

セカンドオピニオンについて

わかりやすい治療の説明われわれの経験からすると、セカンドオピニオンが必要な患者さんはあまり多くはありません。セカンドオピニオンは患者さんの当然の権利ですが、一方でセカンドオピニオンが必要ということは、患者さんがそれまでの診療プロセスで治療方針などに納得されていない、ということなので、場合によっては医療者側の怠慢と言えるかもしれません。大事なことは、セカンドオピニオンをしなくても良いように、医療者が最初からきちんと説明することだと思っています。当科の場合は、患者さんへの治療の説明は患者さんにカルテや診療記録などを一緒にご覧頂きながら、お互い情報を共有して行います。最低30分は必要ですが、患者さんによっては1時間必要な場合もあります。きちんと説明をして、お互いの信頼関係を構築することで、治療に対する患者さんの意欲も出てきます。

放射線治療における最新のトピックスについて

重粒子線による治療

近年、重粒子線や陽子線といった「粒子線」による放射線治療が注目されています。従来からのX線やガンマ線などと比べて、がんの治療効果が高いということで、一度は耳にしたこともあるかと思います。粒子線によるがん治療のメリットは、その物理的な特性によります。通常のX線などでは、病巣に放射線を100%照射しようとしても、周辺組織にも30〜50%程度は当たってしまいます。ところが、重粒子線の場合、照射した際の放射線量は体の表面では弱く、がんの病巣部位でピークをむかえます。そのため、がん病巣に対してピンポイントで攻撃することが出来ると同時に、がん以外の周辺組織に対してはダメージを及ぼすことが非常に少なくなっています。「切れ味」の良い治療法といえるでしょう。これは、特にがん病巣と守りたい組織が位置的に非常に近い場合などはとても有効です。ただし、欠点としては、大掛かりな設備と敷地が必要なため、都心の病院では設置が難しいということ、また、保健適応にはなっていないため、非常に高額な治療法になるということです。

重粒子線治療設備イメージ(放射線医学総合研究所)

進歩する画像診断応用放射線治療

PET検査によるがん検出像イメージ図精度の高い放射線治療を実施するために、現在ではCTやMRIなどの画像診断に加えてPET(positron-emission tomography)を用いることが多くなっています。PETは悪性腫瘍とそれ以外の組織を容易に区別することが出来ます。CTやMRIでは異常な形態をみることはできても、それががんなのか、それとも炎症などの腫瘍でない組織なのか、ということに関しては明確な区別が出来ない欠点があります。一方で、PETは形態ではなくて、がん細胞の生物学特性をみることになりますので、画像上は、がんだけが映し出され、他の異常との区別が容易にできるようになりました。そういった画像情報を積極的に放射線治療に治療できるようになってきたのです。

放射線治療の目標を定める際に、以前であれば、がんだけを画像で検出することは難しかったため、放射線を当てる範囲を決定するときには、照射範囲を広めに設定していました。そのため、正常組織に当たる放射線の範囲と量が相当多くなる可能性もあった訳です。PETにも、微小病巣を描出できないという限界もありますが、それを参考にすることで、より正確なターゲットを設定することが可能になり、正常組織に対する不必要な照射を減らすことが出来るのです。

今後の放射線治療

今後のがん治療においては、病巣を短時間で取り除くことができる手術は、依然重要な位置を占めていくでしょう。一方で、高齢化に伴い、体力や合併症の点で、早期癌でも手術ができない場合も増えていくでしょう。そういった方に対する高精度放射線治療の開発は、早期肺がんなどで既に実績をつんでおり、その他の比較的小さながんに対しても進歩していくと思われます。

 

 

プロフィール

宮下 次廣
宮下 次廣Tsuguhiro Miyashita

日本医科大学 放射線科学 主任教授
日本医科大学付属病院 放射線科 部長

 

こちらの記事は「意気健康 03冬号」のがん特集に掲載されたものです。