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学校法人日本医科大学

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がん特集  甲状腺がん

タイトル:パート12甲状腺がん

「甲状腺がん」については、最近は原発事故などの影響で耳にすることも多いと思います。甲状腺とは、喉ぼとけの下にある、普段は触ることのできない小さな臓器ですが、そこにできたがんが甲状腺がんです。甲状腺の病気は、一般的に女性に多く、甲状腺がんも女性に多いのですが、ほとんどは進行はゆっくりで、治る確率が高いがんとしても知られています。また最近では、本学を中心に、体に負担が少なく美容上もメリットの高い「内視鏡手術」も広まってきました。そこで、今回のWebマガジンでは、甲状腺がんの一般的知識や内視鏡治療などの最新治療法の他、全国的にも注目されているチェルノブイリにおける医療活動などについて、日本医科大学付属病院内分泌外科部長の清水 一雄(しみず かずお)先生に、お話を伺いました。

甲状腺とは?

図1:甲状腺の解剖甲状腺は、喉ぼとけの下方に位置し、気管の前面にHのような形で付着している、小さな臓器です(図1)。中心に向かって上下からくさびが入ったような形をしているので、羽を広げた蝶のようにも見えます。甲状腺は解剖学的には左右の部分に分けられ、それぞれ左葉、右葉とそれらをつなげる中央部を峡部とよびます。通常の大きさの甲状腺は外から触れることはできませんが、何らかの原因で甲状腺が腫脹し、あるいはしこりができると、触れるようになります。

甲状腺の主な機能は、「甲状腺ホルモン」を作り、必要に応じてこのホルモンを全身に分泌することです。甲状腺ホルモンは「サイログロブリン」という甲状腺で作られるタンパク質と、「ヨウ素(ヨード)」を原料として、これらが結合して合成されます。ヨウ素は体内で作ることができないため、人間は外部から人体に取り込む必要があります。ヨウ素は昆布やワカメなどの海草類に多く含まれています。

甲状腺で作られた「甲状腺ホルモン」は甲状腺から分泌され、血流に乗って全身の細胞に作用し、細胞の代謝活動を助けます。代謝活動が高まることで細胞のエネルギー産生量が増え、日々の活動に必要な基礎代謝量を維持することができるのです。

甲状腺がんの種類と統計

図2:甲状腺がんの分類甲状腺がんとは、甲状腺に発生するがんの総称ですが、顕微鏡で観察される組織像や性質などによって大きく5つのタイプに分類できます(図2)

乳頭がん

このうち乳頭がんは、甲状腺がんのほとんど(9割)を占めます。乳頭がんは40〜50代の女性で発生することが多く、男女比は1対7.7程度と、男性に比べて女性に多いのが特徴です。一方で、がんの進行は極めてゆっくりであるため手術成績も良く、手術を受けた患者さんの10年後の生存率は90%以上と、非常に良好です。

甲状腺がんの原因については、いまだによく分かっていません。しかし、乳頭がんについては、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後に周辺地域で頻発していることから、特に乳幼児の被曝によって誘発されることが分かっています。被曝により遺伝子に変異が生じることでがん化が起きると考えられています。

濾胞(ろほう)がん

濾胞がんは、乳頭がんに次いで数が多い甲状腺がんです。甲状腺がん全体の5〜8%を占めています。乳頭がんと同様に女性に多く、発症年齢はやはり高く40〜60歳代が多いのが特徴です。がんの進行は乳頭がん同様ゆっくりですが、乳頭がんに比べると血液を介した肺や骨などへの遠隔転移の頻度が多くなり、その結果生存率も乳頭がんに比べると少し悪くなります。

髄様(ずいよう)がん

髄様がんは、頻度的には少ないですが、髄様がんの2〜3割は遺伝子異常が原因で発症することが分かっています(家族性甲状腺がん)。常染色体上にある「RET遺伝子」とよばれる遺伝子に変異があると、髄様がんを100%発症します。したがって、たとえば両親のどちらかが髄様がんで、且つRET遺伝子に変異がある場合は、その子供は50%の確率でRET 遺伝子に変異を持つことになり、将来髄様がんを発症してしまいます。

そのため、親が髄様がんの患者さんのお子さんは、幼児期から遺伝子検査をしてRET遺伝子の異常がないかどうかをチェックする必要があります。仮に遺伝子変異があっても、あらかじめ甲状腺を予防的に切除してしまえば、髄様がんを予防できます。この遺伝子検査が可能になったことは、髄様がんの早期診断・治療をする上で、とても画期的なことです。

未分化がん

未分化がんは、非常に進行が早く、甲状腺に限らず多臓器から発生するあらゆるがんの中でも最も予後の悪いタイプのがんです。患者さんによっては、未分化がんが見つかってから数週間で亡くなってしまう方もいます。男女差は1対1.5と男性の頻度が女性に近づいてきています。そのほとんどが、乳頭がんから移行(転化という)するタイプです。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫はリンパ球が主体なので、がんというよりは肉腫ですが、甲状腺の機能が低下する「橋本病」という自己免疫疾患が母体となって発生します。ですから、橋本病の患者さんの甲状腺が急激に大きくなってきたら悪性リンパ腫を疑う必要があります。

甲状腺がんの症状

図3:超音波検診一般的には、甲状腺がんは自覚症状がありません。そのため、患者さんの多くは、検診などで甲状腺自体の超音波検査(エコー検査:図3)やCTを実施した際に甲状腺の異常を指摘されて紹介されてきます。たとえば、動脈硬化症の疑いがある方は、検診で頸動脈のエコー検査を行うことが現在一般的になっています。その際、甲状腺は頸動脈の近くにあるので、甲状腺の異常が同時に発見されることがあります。また、肺炎などで呼吸器科に入院した患者さんが胸部のCTを行うと、同時に甲状腺も映ることが多く、その際に甲状腺の腫大やしこりが発見されることもあります。

このように、甲状腺がんの場合は、偶然に発見されることが多いのです。私の外来でも、このように偶然発見され紹介されてくる患者さんが、1日に2、3人はいらっしゃいます。

甲状腺がんは症状がありませんが、がんが大きくなってくると、皮膚の上からでも触れることが可能になります。ただし、患者さん自身が触って分かるしこりとなると、1.5〜2cm以上の大きさではないと難しいと思います。しかも、しこりが気管の前にあれば分かりやすいのですが、気管の横などにある場合は自分では分かりにくいと思います。また、触診では、しこりの硬さによって、がんかどうかを見分けることがある程度できます。一般的には、しこりが硬いとがん、柔らかいと良性腫瘍のことが多いのです。

他にも、がんが大きくなってくると、甲状腺の裏側を走行し声帯の動きを司る「反回神経」が圧迫や浸潤されてくると、患者さんは声がかれる(嗄声:させい)などの症状を呈することがあります。あるいは、未分化がんのように急激に大きくなるタイプのがんでは、甲状腺を覆う被膜が牽引されることで痛みが生じるなどの症状が出ることもあります。

しかし、一般的には甲状腺がんには症状がない為、発見されるきっかけとしては、エコー検査が最も多くなります。

ちなみに、甲状腺は大きくなると皮膚からでも触知することが可能になると言いましたが、触知できたものが甲状腺かどうかを見分ける方法があります。

私が実習で医学生に教える方法は、患者さんにつばをのみこんでもらった際に、触れているものが喉(気管)と一緒に上下するかどうかがポイントとなります。というのも、甲状腺は気管に付着している為、つばを飲み込む際に気管が動くと、それと一緒に動くからです。したがって、甲状腺の位置にしこりがある場合は、それが喉と一緒に動けば甲状腺の可能性が高く、そうでなければリンパ節など、甲状腺以外の組織ということになります。

甲状腺がんの検査と診断

問診・触診

外来では、患者さんに対して症状の有無や家族歴、既往歴、被曝歴などのお話を聞き、その後甲状腺を観察し、触診を行います。触診では甲状腺の大きさや広がり、しこりの有無や大きさ硬さなどの他、周囲のリンパ節の触診を行います。

超音波検査と穿刺吸引細胞診

図4:穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)

超音波検査(エコー検査)は甲状腺がんの検査として、最も頻繁に用いられます。CT検査と比べると被曝の問題もありませんし、3~4mm程度の大きさのしこりでも検出することが可能です。またエコーは穿刺吸引細胞診を行う際にも用います。穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)とは、甲状腺のしこりに対してエコーガイド下に針を刺し、しこりを構成する細胞を吸引してくる検査です。吸引された細胞は、その後細胞診標本となり、病理医ががんの有無を診断します(図4)。

シンチグラフィー検査

図5:シンチグラフィーシンチグラフィー検査では、放射性物質を利用してしこりの有無を検査します。たとえば先述したように、甲状腺ホルモンはヨードを原料としています。そのため、放射性ラベルされたヨード(放射性ヨード)を注射すると、甲状腺ホルモンをたくさん作っている部分は、放射性ヨードを選択的に取り込みます。この性質を利用して、甲状腺ホルモンを過剰に産生する「甲状腺機能亢進症」では、放射性ヨードを利用したシンチグラフィー検査が用いられることもあります(図5)。

図6:ホットスポット、コールドスポット一方、甲状腺良性腫瘍でもまれに甲状腺ホルモンを過剰に産生するため、その場合は本検査にて診断できます(プランマー病という)。図6のように、しこりの部分のみ黒くなっています(hot spot)。逆に、甲状腺ホルモンを作らないタイプのしこりであれば、その部分は画像上は白く抜けることになります(cold spot)(図6)。

血液検査

甲状腺がんの血液検査としては、腫瘍マーカーを調べる検査があります。たとえば血液中の「サイログロブリン」の測定は、甲状腺がん全摘術後の再発転移の有無を検査するのに役立ちます。あるいは、髄様がんで過剰に分泌される「カルシトニン」や「CEA」を測定することは、他の検査と合わせ髄様がんを診断することに役立ちます。

以上のように、甲状腺がんの検査にはいくつかありますが、われわれは、これらをうまく組み合わせて診断をして行きます。

具体的には、まず患者さんが外来を受診されると、問診と触診を行います。その後エコー検査を実施し、触診で触れたしこりがどんな性状をしているのか、がんなのか、それとも良性の嚢胞などか、などを調べます。同時に、血液検査を行い、腫瘍マーカーを調べます。もしエコー検査でがんが疑われるしこりなどが見つかると、当院ではその場で「穿刺吸引細胞診」を行います。また、シンチグラフィーが必要な場合は、最適な放射性同位元素を検討し、骨などが邪魔になったり、また画像がはみ出てエコーでは診断が難しい場合などはCT検査も行います。

穿刺吸引細胞診の結果は、1週間で出ますので、患者さんが2度目に受診された際には、すでに診断がついているはずです。その時点で、治療方針について患者さん及びご家族の方とお話しをして、治療へと進んで行きます。

甲状腺がんの治療

図7:甲状腺と反回神経の位置甲状腺がんの治療には、がんの病状に合わせて、経過観察、手術、放射線ヨード治療、化学療法などがあります。

たとえば、甲状腺がんの中で最も頻度の高い乳頭がんの初期には、大きさが1cm以下の「微小がん」という状態のがんがあります。もともと予後のよい乳頭がんですから、医療機関によっては、微小がんは手術をせずに経過観察をするところもあります。

一方、当院では微小がんに対しては原則的には手術を行います。なぜかと言いますと、先述した予後が大変悪い未分化がんは、すべて乳頭がんから移行するからです。そして微小がんは、乳頭がんの初期段階だからです。

もちろん微小がんが未分化がんになる確率は非常に低いものです。しかし、患者さんにとっては経過観察するとしても毎日が不安で気が気でない、という方もいらっしゃいます。また、場合によってはがん保険に入れないなどの状況も生じ得ます。そのため、当院では原則的に微小がんは手術するようにしています。また、当院では1cm以下の微小がんに対しては「内視鏡手術」を行うことができます。特に首に傷を残したくない、という方には内視鏡手術を実施しています。

通常、一般的な甲状腺がんの手術は長くても3、4時間で終了します。患者さんは翌日より食事が可能になります。胸部や腹部の手術と比べると、体に負担がかかるような大きな手術ではありません。

一方、手術の後遺症については、対象とするがんの進行度によっても変わりますが、声帯の動きに関連する問題があります。先述したように、甲状腺の後ろには、声帯の動きを制御する「反回神経」が走っていますが(図7)、甲状腺の後側にがんがあると、反回神経にがんが浸潤することがあるのです。そうしますと、がんと同時に神経を合併切除する必要が出てきます。すると声帯の動きが麻痺する為に声がハスキーになり(嗄声)、水分をとるとむせることが多くなります。

図8:副甲状腺また、甲状腺の裏側には副甲状腺という小さい米粒ほどの内分泌組織が4つ存在しますが、この臓器は血液中のカルシウムの調節に関わっています(図8)。一方、副甲状腺は形がリンパ節に似ているため、手術のときは、万が一リンパ節であることを考えて、「疑わしきは罰する」という態度で切除する必要があります。というのも、仮にそれが、がんが転移したリンパ節であった場合、がんを取り残すことにつながるからです。副甲状腺を切除すると、血液中のカルシウムが低下してテタニーという唇や両手指がしびれる症状を起こすことがあります。

このように、甲状腺がんの手術では、「声帯」と「しびれ」に関する後遺症が特徴的と言えます。

内視鏡手術

図9:内視鏡手術跡当院では、甲状腺がんに対して内視鏡を用いた低侵襲手術を実施しています。これまで、650例に近い患者さんに対して内視鏡手術を実施してきました。当初は良性腫瘍を対象に始めましたが、現在では甲状腺がんに対しても行っています。甲状腺がんに対しては、すでに100例以上の手術を行っています。

内視鏡手術の利点は、侵襲が少なく、通常前頸部に入る手術創がないことです(図9)。一方、内視鏡手術の欠点は甲状腺の周囲にあるリンパ節の切除が不十分になることですが、幸い微小乳頭がんは転移が少ないこともあり、手術成績は非常に良好です。当院では、内視鏡手術の適応となるのは、1cm以下の微小がんで、画像上リンパ節転移がないものに限っています。それらの症例に対して、甲状腺の半分のみを切除するようにしています。これまで100人以上に対して実施していますが再発された方は一人もいません。チェルノブイリ原発事故により甲状腺がんが発症した方にも現地で9人に実施しましたが、再発もなく美容上のメリットが極めて高い手術です。

図10:手術跡比較

放射性ヨード内用療法

放射性ヨード内用療法では、放射能をラベルしたヨード131 Iを内服することで、甲状腺がんを選択的に攻撃します。通常は、かなり進行した乳頭がんや濾胞がんに対して、甲状腺全摘をした後に、大量の放射性ヨードを用いて治療します。通常の検査で用いる放射性ヨードは0.5〜1.0ミリキューリーであるのに対して、放射性ヨード治療では50〜100ミリキューリーを用いますので、どれだけ大量かが分かるかと思います。そのため、治療は一般の病室ではなく、周囲の被曝や汚染を避けるために特別な病室(アイソトープ病室)に患者さんを隔離して行います。

放射性ヨード内用療法のメカニズムですが、進行したがんの場合、甲状腺と周囲のリンパ節を切除しても、全て取りきれていない可能性も否定できません。一方、仮にどこかに取り残しや転移があったとしても、投与された放射性ヨードは全身を巡って甲状腺がんに取り込まれるので、甲状腺の転移があればそこに取り込まれて攻撃できるのです。このように、転移巣であっても選択的に放射線治療ができるのが甲状腺がんの特徴です。甲状腺の細胞が、ヨードを選択的に取り込む仕組みを利用した治療法です。

ホルモン治療

ホルモン治療は、特に日本では多く行われている治療法です。「甲状腺ホルモン(T3, T4)」は、脳の下垂体という場所から分泌される「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」によって調節されていますが、TSHは、T3,T4が血中にたくさんある状況だと、ネガティブフィードバックがかかり下垂体からの分泌が抑制されます。また逆に、T3,T4が血中に少ないと、下垂体からのTSHの分泌量が増え、T3, T4の分泌を増やそうとします。

一方で、TSHには、T3,T4の分泌を促す以外に、甲状腺細胞の増殖を促進する作用もあります。そのため、TSHによって、がん細胞が増殖する可能性があるのです。したがって、ホルモン治療では、TSHの分泌を抑制する為に、患者さんにはあえてT4を内服していただき、血中のT3, T4レベルを高い状態で保つようにします。あえて血中のT3,T4レベルを高い状態に保つことで、TSHの分泌を抑制し、がん細胞の再発増殖を防ぐことが目的です。

ホルモン療法は、手術後にリンパ節転移がある場合など、手術後にがん細胞が残っている可能性がある場合に行われます。

甲状腺の治療は、上記のように手術、放射線ヨード内用療法、ホルモン療法、が主体となります。一方で、放射線の外部照射や、化学療法はあまり行われません。未分化がんのように、外科的治療が不可能な場合は化学療法を実施することになります。また放射線の外部照射も、骨転移などに伴う疼痛緩和の目的で行われることはありますが、根治治療目的で行われることは多くありません。

治療方針の決め方

甲状腺がんでは、治療の原則は「手術」が第一選択となります。一方、高齢者で合併症が多くて手術が難しい、などの場合は「放射性ヨード内用療法」や「PEIT(経皮的エタノール注入療法)」などを第一選択治療として行うこともあります。「PEIT」とは、がん組織に対して直接エタノールを注入してタンパク変性を起こし死滅させる治療法です。また、先述したように、髄様がんに関しては、遺伝子診断でRET遺伝子が陽性のお子さんには甲状腺の予防的全摘をし、また未分化がんで他に治療法がない場合などは、第一選択として化学療法を選択することもあります。

このように、一例一例、患者さんの病状を見ながら治療方針を検討して行きますが、基本的には甲状腺がんに対しては手術が第一選択となります。

治療方針を決定するにあたって大事なことは、まずは「病気を治す」ことを目的とすることです。そのうえで、患者さんの意志、年齢、家族構成、家族の意見、などを見極めながら最終的な治療方法を決めて行きます。たとえば、甲状腺がんが気管に浸潤している場合では、がんと一緒に気管も切除する必要が出てくるケースもあります。このようなときは、患者さんも手術を迷われることもありますが、気管を切除しても修復するのであることをお伝えして、なるべく手術に関する理解をしていただけるような努力をしています。

研究の最新トピック

乳頭がんに関しては、手術成績が非常に良いこともあり、新しい治療法などの研究はあまり活発ではありません。一方、濾胞がんに関しては、現状では術前診断が難しいこともあり、濾胞がんの術前診断、特に濾胞がんと濾胞腺腫の鑑別診断法に関する研究が世界中で進められています。髄様がんは、遺伝子診断が可能になってからは、予防的全摘手術に関する研究が盛んです。しかし、予防的全摘手術を子供が何歳の時点で行うか、についてはまだ議論が行われている段階で、ガイドラインを整備中です。また未分化がんに関しては世界中で治療法についての研究が行われていますが、まだまだ道半ばの状況です。

チェルノブイリにおける活動

図11:チェルノブイリでの診療風景現在私は、チェルノブイリにおいて、原発事故後に発症した甲状腺がんの患者さんに対して、最も被害を受けた国、ベラルーシ共和国で内視鏡治療を行う活動を続けています。1999年に初めて現地に行き、当初は現地医師に対する細胞診や診断技術の指導を行っていましたが、以来現在も13年の間、毎年現地に赴いています。2008年からは、内視鏡手術を現地で行い、その普及活動にも努めています。今では現地の医師も内視鏡手術をはじめており、この治療法が広まっていることを実感しています。

1999年のスタート時は非常に大変で、たとえば手術器具がロシアの税関で形がライフル銃かと間違われるなど、とても苦労しました。しかし、現在では理解も広まり、また本学の学生も連れて行くようになり、医学生の卒前教育も含め非常に有意義な活動になっていると自負しています。

学生にとってはCTなどの新しい医療器設備も満足にない施設で、触診とエコーだけを頼りに診断して行く過程など、日本にいては分からない「医療の原点」を学ぶ良い機会にもなっています。学生は皆、とても感銘を受けて帰国します。この活動は、今後とも体が動くかぎり、続けて行きます。

 

プロフィール

清水 一雄

こちらの記事は「意気健康 04春号」のがん特集に掲載されたものです。