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女性の病気特集  女性の病気と不妊症・不育症

Webマガジン -知って深まる家族のキズナ-『女性の病気特集』part.1 女性の病気と不妊症・不育症 日本医科大学付属病院 女性診療科・産科部長 竹下 俊行

晩婚化や高齢出産など、女性のライフスタイルの変化に伴い、子宮内膜症や乳がん、不妊症などの女性に特有の病気が近年増加傾向にあります。そこで、今回のwebマガジン特集では、女性に特有の病気や女性に多い病気について、その原因、症状、検査、治療などを詳しく取りあげます。第一回目は、女性の病気についての総論と不妊症、不育症、また更年期障害と子宮内膜症について、最新の知見や治療法、日常生活で気をつけるべきポイントについてお伝えします。

女性の病気と不妊症・不育症

超高齢社会に突入した日本では、今後女性に特有の病気がさらに増加することが予想され、さまざまな科で横断的に対応する必要性が増してきました。また、近年では女性の生活スタイルの劇的な変化によって、年齢を重ねてから出産を希望される方も増え、不妊症や不育症について知識を得ることがますます重要になっています。そこで今回は、女性の病気の総論として近年増えてきた女性専門外来の必要性について、また高齢化とともに増加する不妊症や不育症について、日本医科大学付属病院女性診療科・産科部長の竹下俊行(たけした としゆき)先生にお話を伺いました。

増える女性外来

近年、わが国では女性に特化した外来形態が増えてきました。「女性外来」「女性専門外来」などです。これらの外来は、女性に特有な病気や特に多い病気を対象にしており、産婦人科領域を中心に、性差を考慮したきめ細かい診療を目的に運営されています。

このような流れは1990年代の米国で始まりました。女性と男性には特有の病気があり、また同じ病気であっても発生頻度やかかり方、薬剤への感受性が違うといった考えのもと、女性に特化したケアを目的に、産婦人科のみならず、内科、乳腺外科、皮膚科、泌尿器科、精神科などが共同で診療に当たる取り組みがおこなわれてきました。たとえば、現在ハーバード大学やカリフォルニア大学の付属病院など、米国の多くの医療機関では女性医療専門センターが設置され、女性に特化したケアを提供するモデル機関(National Centers of Excellence in Women’s Health)として米国国立衛生研究所や米国保健福祉省に認定されています。
これを受け、日本でも15年ほど前から女性専門外来を設置する医療機関が登場し、「性差医療」という言葉の広がりとともに、診療科横断的で女性に特化した医療を提供する試みがおこなわれています。そのような外来では、産婦人科疾患だけでなく、自己免疫疾患、骨粗鬆症、内分泌疾患、うつ病などの精神疾患なども、共通の外来において連携しながら診療を展開しています。

女性に特有な病気としては産婦人科領域の疾患である、不妊症、不育症、子宮内膜症、また子宮がん、卵巣がんといった悪性腫瘍や、子宮、膀胱、直腸が膣から脱出する骨盤臓器脱などがあります。また、発症に性差があり、男性よりも女性に多い病気としては、リウマチやSLEといった膠原病、鉄欠乏性貧血、骨粗鬆症、甲状腺疾患、更年期障害などがあります。
これからの医療は、このように性差によって発症が違う疾患があることを踏まえた上で、性差特有の病態や生活環境などに配慮しながら丁寧な診療をおこなうことが必要となります。そのような中、今回の特集では「女性の病気」として、不妊症、不育症、子宮内膜症、更年期障害といった、女性のライフスタイルの変化や超高齢社会にも関係する女性特有の疾患について、産婦人科領域を中心に説明します。

高齢化に伴い増加する「不妊症」

不妊症とはどのような状態を指すのでしょうか?日本産科婦人科学会用語委員会では、不妊症を「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態」と定義しています。また、世界保健機関(WHO)では、不妊症(infertility)の臨床的定義を「避妊をせずに定期的な性交渉を行っているにもかかわらず、12カ月を経ても臨床的な妊娠が成立しない生殖器系の病気」1)としています。一般的には、特に避妊しない性生活を送っていても2年以上妊娠しない場合を不妊症といいます。

一昔前まで不妊症に悩むカップルは10組に1組といわれていましたが、最近では6組に1組とも5組に1組ともいわれています。また、高度生殖補助医療とよばれる不妊治療によって、体外受精で生まれたお子さんの数は平成23年には32,426人で、これは、総出生児数105万人のうち3.1%に当たります2)。平成16年の体外受精による出生児数が18,000人ですので、この7年間で80%も増加したことになります。また一般的不妊治療である人工授精と合わせると、その数はさらに多くなります。一方、国も不妊に悩むご夫婦に対して体外受精の経済的負担を軽減するための施策を平成16年度より打ち出しています3)。このように、現在不妊症は決して珍しい状態ではなく、不妊症とそれに伴う不妊治療(人工授精、体外受精)は、今後もさらに増えていくことが予想されます。

不妊症の原因

図1:妊娠のプロセス妊娠が成立するためには、いくつかの過程がありますが(図1)、女性側から見ると、まず卵巣で卵胞が成熟し卵子が作られる過程、そしてその後に成熟した卵子が卵胞から飛び出す「排卵」の過程があります。そして排卵された卵子は、卵管采といわれるラッパ状の卵管の端で捕まえられ、卵管に運ばれ子宮に向かいます。一方、男性側から見ると、精子は射精により子宮に侵入し、その後卵管を「卵管膨大部」とよばれる卵管の太い部分を目指して進みます。そして、卵管膨大部で受精をし、受精卵となります。受精卵は子宮に運ばれ、胚となり子宮壁に「着床」します。この「着床」が妊娠の開始です。その後各種ホルモンによって妊娠が維持され、最終月経から約40週後に赤ちゃんが生まれます。不妊症では、この過程のいずれかに問題が生じていると考えられます。

また妊娠において大事なこととして「卵子は老化する」という事実があります。最近はメディアなどでも取り上げられ認知度も上がってきましたが、卵子は女性が生まれた瞬間から老化を始めます。年齢で線を引くのは難しいのですが、一般的には40歳を超えると卵子の老化は顕著になり、体外受精の成功率も40歳になると10%未満となってしまいます。そのため、卵子の老化については、妊娠の時期を決める上でも、ぜひ知っていただきたいと思いますし、われわれも啓蒙活動を続ける必要があると思います。

不妊症の検査

図2:月経周期不妊症の検査には、月経周期(図2)と関係があるものとないものとがあります。関係があるものとしては、図3のように月経周期1日〜5日目までに測定するホルモン値や、月経終了後から排卵期までの間におこなう子宮卵管造影や子宮鏡を用いた検査などがあります。また、排卵期には「フーナーテスト」といって、性交後の子宮頸管内の精子を観察する検査があります。これは、その後の人工授精や高度生殖補助医療を検討する際の目安になります。また、排卵後の黄体期とよばれる時期には、黄体ホルモン(プロゲステロン)や卵胞ホルモン(エストロゲン)を測定します。また、男性に対しては精液検査をおこない、精液量や精子濃度、精子運動率、pHなどを測定します。一方、月経周期と関係のない検査としては、子宮頸がんや卵巣がんなどがんの検査や、クラミジアなどの感染症の検査があります(図3)。

図3:不妊症の代表的検査

不妊症の治療法

図4:不妊症の治療法検査によって、原因が分かると、それぞれの原因に対応した治療法をおこないます。必要に応じて手術で不妊原因を取り除くこともありますが、現在では腹腔鏡や子宮鏡など、低侵襲の内視鏡治療が多く行われるようになりました。また、手術以外の不妊症の治療法には、大きく分けて「一般不妊治療」と「高度生殖補助医療」の二つの方法があります(図4)。

一般不妊治療:

一般不妊治療では、まず「タイミング法」とよばれる治療法から始めます。基礎体温やホルモン値を参考に排卵日を探し出し、性交に適した日を医師がアドバイスをします。またタイミング法でうまく妊娠が成立しない場合、あるいは精液検査やフーナーテストで問題がある場合は、「人工授精」をおこないます。人工授精では、男性のそのままの精液、もしくは赤血球や白血球などを除去し濃縮処理した精液を細いチューブに取り、子宮の内腔に注入します。治療は外来でおこない、痛みもほとんどありません。人工授精は、精子数が少ない方や、精子の運動量が低い方、また精子が通る子宮頸管に炎症などがあり機能が不良な方に有効な治療法となります。

高度生殖補助医療:

一方、一般不妊症治療で妊娠が成立しない方には、高度生殖補助医療を行います。この治療法では、超音波ガイドのもと、膣経由で細い針を卵巣に刺し、成熟した排卵直前の卵子を吸引します(穿刺吸引)。そして一度卵子を体外に出し、男性から取った精子と受精をさせ、再び子宮に戻すのです。この戻す処置を「胚移植」といいます。通常、一人の患者さん当たりに胚移植する数は1個となります。また、高度生殖補助医療では、採卵は麻酔下で行い、採卵日当日は入院が必要となります。(図5)。

図5:体外受精の方法

さて、体外受精では、卵子と精子を受精させる方法によって二通りの方法があります。ひとつは、「媒精法」といって、シャーレの中に取り出した卵子と精子を入れて、自然に受精させる方法です。もう一つは、「顕微授精法」といって、顕微鏡下で卵子と精子を人為的に受精させます。インジェクションピペットとよばれる細いガラスの針に精子を1個入れて、ピペットを卵子に挿入し、精子を卵子の中に注入するのです。顕微授精法は、精子側に受精障害がある場合におこないます。

当院の女性診療科・産科においては、2010年に95周期の胚移植を行い、38周期が妊娠に至りました。胚移植あたりの妊娠率は約40%であり、全国平均よりも高い結果を出すことに成功しています。

「不育症」とは?

せっかく妊娠してもその後流産、死産を繰り返し、赤ちゃんを授かることが出来ない方がいらっしゃいます。このような状態を「不育症」とよびます。通常、流産は胎児側の染色体異常が原因であるなど「偶発的」要素が強いため、何度も流産を繰り返すことは非常に珍しいのです。そのため、習慣流産と一般的に言われる3回以上の流産を繰り返す場合は、母親か父親、もしくはその両者に原因がある可能性が高いため、不育症の検査が推奨されています。一方、われわれの統計によると2回の流産でも6割の方に何かしらの異常が認められることがあるため、2回の流産の場合でも検査を勧めることがあります。

不育症へのとりくみ

不育症の原因は数多くあります。たとえば、子宮奇形や子宮筋腫などによる子宮形態の異常や、甲状腺疾患、糖尿病などの内分泌異常です。また最近注目されている不育症に関わる病気が「抗リン脂質抗体症候群」とよばれる自己免疫疾患の一種です。また、一部の凝固因子などに異常があり流産を繰り返す場合があります。さらに、夫婦のどちらかに染色体異常がある場合にも流産を繰り返すことがあります。このように、不育症の原因は多岐にわたりますので、それぞれに対応した検査を行うことになります。

上述の「抗リン脂質抗体症候群」は、不育症の原因としてもっとも多いことが分かってきました。「抗リン脂質抗体症候群」では血液凝固異常が起きやすく、そのため血栓とよばれる血の塊が体の中にできてしまい、将来胎盤になる組織の機能を障害してしまいます。その結果、流産や死産がおきてしまうのです。

「抗リン脂質抗体症候群」の原因は、体の中の「自己」に対して抗体ができるために生じる免疫異常です。また、流産のみならず、妊娠高血圧症候群や胎盤機能不全などの病気の原因にもなります。この病気の診断は、血液中の「自己抗体」を検査することでおこないます。検査で測定する自己抗体には、「抗カルジオリピン抗体」、「ループスアンチコアグラント」、などがあります。

「抗リン脂質抗体症候群」の治療としては、抗血栓療法として、少量のアスピリンと、ヘパリンとよばれる抗凝固薬を併用することで、元気な赤ちゃんを産む確率が高くなることが分かってきました。

このように、不育症については現在「抗リン脂質抗体症候群」が非常に注目されており、われわれ女性診療科・産科でも、特に力を入れてその原因と治療法の解明に日々努めています。

不育症の経験があると、妊娠しても喜べずかえって不安が募る毎日を過ごしている場合が多いものです。通常妊娠の診断がつくと、次回健診は早くても2週間後、長いと4週間後です。過去の流産が妊娠初期の場合、一番心配な時期に診察が受けられないことになります。そこで当院では、そのような妊婦さんをTLC外来という専門外来で診ています。TLCとはTender Loving Careの略で、そのまま訳せば「やさしさに包まれるような愛に満ちたケア」となりますが、妊娠のごく初期(胎嚢が見える前)から少なくとも1週間に1回は来ていただき、すこし時間をかけて専属のスタッフが診察をする外来です。

最後に

ライフスタイルの変化や高齢化に伴い、女性の病気が増えています。そのなかでも、われわれ女性診療科・産科が携わる領域では、「不妊症」や、今まで知らない方も多かった「不育症」が注目されてきました。これらの病気は、ご夫婦だけではなく、その次世代にも関係してくる病気であり、国全体で治療に取り組む必要のある課題です。

われわれ産婦人科医にとって、何年も苦労して不妊治療や不育治療を行った末に無事妊娠し、10ヶ月後に赤ちゃんが生まれてくる瞬間ほどうれしいことはありません。これからも「女性の一生の健康をケアさせていただく」、という気持ちで診療に取り組んでいきたいと思います。

参考文献

  1. http://www.who.int/reproductivehealth/topics/infertility/definitions/en/
  2. 日本産科婦人科学会の集計による。総出生児数は、人口動態統計による
  3. 厚生労働省:特定不妊治療助成事業

(このインタビューは2013年11月取材のものです。)

 

こちらの記事は「意気健康 07冬号」の女性の病気特集に掲載されたものです。