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女性の病気特集  子宮内膜症

Webマガジン 『女性の病気特集』part.2 子宮内膜症 日本医科大学付属病院女性診療科・産科 明楽 重夫

女性のライフスタイルの変化によって近年増加している病気が子宮内膜症です。激烈な痛みや不妊を伴う子宮内膜症は、女性の生涯にわたって関係する病気です。今回は、女性に大きな負担を強いるとともに、病気に伴う社会的損失も大きい子宮内膜症について、症状や治療法などを中心に、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の明樂重夫(あきら しげお)先生にお話を伺いました。

図1:子宮の構造子宮内膜症とは?

本来、子宮内膜は子宮の内側の表面に位置しており(図1)、卵巣から分泌される女性ホルモンの「エストロゲン」に反応して増殖します。増殖した子宮内膜は、受精卵が着床するための場所となるべく準備します。もし受精卵が着床せず妊娠が成立しなければ、増殖した子宮内膜はいずれ剥がれ落ちて月経血として体の外に排出されます。これが女性に周期的におきる月経です。

一方、子宮内膜症(以下内膜症)とは、この子宮内膜が子宮以外の場所に発生して増えてしまう病気です(図2)。子宮以外に子宮内膜が増殖する場所としては、1)卵巣、2)子宮と直腸の間にあるダクラス窩とよばれるくぼみ、3)腹膜などがあります。内膜症は、月経のある方の10%に発生するとされています。

図2:子宮内膜症の好発部位

内膜症の原因は?

内膜症の原因についてはまだはっきりとは解明されていません。しかし、現在では月経血が「卵管に逆流」することが原因ではないかと考えられています。月経で発生する月経血は、本来であれば子宮の内腔から腟の方に向かい体の外に排出されますが、その際に月経血の一部が卵管に向かって逆流している可能性があるのです。月経血には子宮内膜が含まれているため、逆流によって子宮内膜が子宮以外の組織に接着してしまうことで内膜症が発生すると考えられています。

また、子宮内膜は、血液やリンパ液に乗って子宮から遥か離れた組織にも飛ぶことが分かっています。まるで悪性腫瘍のように、子宮の外、たとえば肺などにも飛んでいく性質があります。

内膜症の症状

内膜症でもっとも多い症状は、月経中に悪化する「痛み」です。特に若いうちは、初発症状として月経痛、下腹部痛、腰痛、頭痛などの「月経困難症」が見られます。その後、月経を繰り返すごとに、痛みがひどくなり、上記以外にも排便痛や性交痛、慢性の骨盤痛などがみられるようになります。

症状が徐々に月経痛以外に広がる原因としては、子宮内膜の「浸潤」と関係があるとされています。子宮内膜は、当初は卵巣もしくは子宮の裏側にあるダグラス窩の表面に接着しますが、時が経つに連れて、接着した組織が深く浸潤します。その際に神経などを巻き込み「繊維化」といわれる組織が固くなる状態に進行するのです。神経を巻き込むと強烈な痛みが発生します。また便の通過や性交に伴って局所が刺激されることで痛みが生じ、慢性的な骨盤痛が持続します。最初は月経痛で始まった痛みが、さまざまな場所に広がるのです。患者さんによっては痛みが強すぎるために仕事など日常生活に支障を来たし寝込んでしまう方もいらっしゃいます。痛いということは本当につらく、QOL(quality of life)が下がる原因となります。

痛み以外によく見られる症状は、「不妊」です。不妊症の患者さんの半分が内膜症を持っていると言われています。そもそも、内膜症の頻度は女性の5〜10人に1人と言われていますから不妊症の患者さんのかなりの方は内膜症が原因であると考えられます。

チョコレート嚢胞とは?

図3:チョコレート嚢胞

卵巣深部にできた内膜症を「チョコレート嚢胞」とよびます。内膜症は月経周期に合わせて出血しますが、卵巣にできた出血は卵巣の中でとどまり、嚢胞といわれる袋状の房の中に貯留されます(図3)。その中で、古い出血は時間とともにチョコレート様の粘性の高い状態に変化するのです。嚢胞は次第に5cm,6cmと大きくなり、破裂する場合もあります。また最近では、チョコレート嚢胞は「卵巣がん」になりやすい、ということも分かってきました。

内膜症の傾向

内膜症は、月経のある性成熟期の女性、主に20代半ばから40代までの女性に発症し、35歳頃が発症のピークになります。一方、内膜症はエストロゲンに反応して増殖しますので、50代で閉経を迎えエストロゲンの分泌がなくなると、内膜症の発症も減少します。またエストロゲン分泌との関係上、一般的には、月経期間が長く、また月経周期が短い方の方が内膜症になりやすいと言われています。

また近年は、内膜症になる女性が増加傾向にあります。その理由としては、高齢化に伴い妊娠する時期が遅くなることで、妊娠までに起きる月経回数が増加しているためと考えられます。つまり、昔に比べて生涯におこる月経の数が多くなっているのです。妊娠をしない限り月経が繰り返されるため、その分月経血が逆流する回数が増加し、内膜症になる機会が増えると考えられています。このように、女性が子供を産むパターンの変化にしたがって、内膜症も増えているのです。

内膜症の統計と社会的課題

日本の30歳代の女性においてもっとも国民医療費が多く支払われている病気は内膜症です。この結果からも、内膜症が非常に頻度の高い病気であることが分かります。

内膜症になると、仕事を休む女性が増え、生理休暇などによる労働の損失が大きな問題となります。ある試算によると、内膜症による直接的または間接的な経済的損失は1兆円にものぼると言われています。

また、先述したように内膜症は非常に「がん化」しやすい病気です。卵巣がんに関しては、内膜症がある方は無い方にくらべて卵巣がんの発生率が12倍も高くなると言われています。逆に言うと、内膜症を上手にコントロールできれば、卵巣がんを発症する患者さんも減らせるのです。

女性にとって内膜症ほどつらい病気はありません。若い頃は月経困難症によって学業、就職が妨げられ、その後次第に痛みが悪化し、生活の質、QOLが下がってしまいます。また妊娠を希望される時期には不妊症に悩まれる方も多く、その後50歳前後で閉経してようやく症状が落ち着いたと思われたら、今度は卵巣がんの心配をしなくてはいけません。内膜症は、女性の一生涯において関係する負担の大きい病気なのです。

検査・診断について

図4:チョコレート嚢胞の超音波画像内膜症の診断は、まず問診によって症状を詳細に聞き、症状と月経に関連性があることを確認します。内膜症であれば、月に一回の月経時期に月経痛や排便通、腰痛などの症状が悪化します。月経の時期に症状が悪化する、いわゆる「月経随伴症状」とよばれる状態によって診断の目安がつくのです。極端な例では月に一度下血する「直腸内膜症」や、月に一度喀血する「肺内膜症」などがあります。

次に内診で子宮や卵巣の動きや痛みを直接確認します。腟を通して直接子宮や卵巣に触れてみて、可動性の有無を確かめます。子宮の可動性が悪い場合は触ればすぐに分かります。また内膜症の場合は、内診によって非常に強い痛みがでます。

このように、おおよその診断は、問診と内診を行うことで分かりますが、チョコレート嚢胞などの場合は、経腟超音波検査やMRIを行うことで更にはっきりします。また、最終的には、開腹又は腹腔鏡で実際に病巣を見ることで、確定診断をつけます。内膜症は非常に特徴的な外観をしているためにすぐに分かるのです。悪性腫瘍などでは病理検査によって確定診断をしますが、内膜症の場合は確定診断に病理検査は必要ないとされています。他には血液検査を行い、内膜症で値が高くなるCA125やCA19-9の値をチェックします。

治療法について

内膜症の治療には、「薬物療法」と「手術療法」の2つの方法があります。治療法は患者さん一人一人の様々な状況を考慮して選択することになります。考慮すべき要素としては、年齢や病気の進行、重症度、症状に加えて、不妊症を合併しているか、今後に妊娠を希望するかどうか、など多岐にわたります。

1. 薬物療法

薬物療法には2種類あり、初期はNSAIDsといわれる非ステロイド性抗炎症薬を用います。いわゆる「痛み止め」で経過を見るのです。それが効かなくなると次は「ホルモン療法」を行います。ホルモン剤は排卵を止め、内膜症の進行を抑える治療法です。用いる薬としては、GnRHアゴニスト製剤や低用量ピル、黄体ホルモン製剤があります。ホルモン製剤を投与すると擬似的な閉経状態や妊娠状態になりますので、排卵がなくなるのです。そのためこの治療法は妊娠希望者には行えません。したがって、一人ひとりの女性の希望を考慮しながら、お子さんが欲しいと思われている方には痛み止めを使用し、妊娠よりも病気の進行をとにかく止めたいと希望される患者さんの場合は、初期よりホルモン剤を用います。

一方、薬物治療のみでは症状が収まらないケースも多々あります。特に卵巣にチョコレート嚢胞がある場合は手術が必要となります。

当院では図5のような治療指針を作成し、患者さんと相談しながら治療法を決定していきます。

図5:子宮内膜症の治療指針

まず、卵巣に「チョコレート嚢胞」があるかどうかを確認します。もしある場合は超音波検査やMRIなどで大きさを測定し、直径が4cm以上ある場合は、手術による摘出となります。直径が4cm以下の小さいチョコレート嚢胞の場合は、最初に薬物療法を行い、再発する場合に手術をします。

一方、チョコレート嚢胞がない場合は、不妊症があるかどうかによって、最初に行う治療法が変わります。不妊がない場合は、当初は薬物療法によって経過を観察します。しかし不妊がある場合は、内膜症が不妊の原因となっている可能性が高いため、手術によって原因となる病巣を切除します。

2. 手術療法:腹腔鏡手術の増加

手術療法では、「病巣までのアプローチ」の方法によって2種類あります。開腹手術と腹腔鏡手術です。また「切除の範囲」についても2種類の方法があります。子宮を含めて全部切除する根治手術と、妊娠機能を維持するために病巣だけを取る方法です。通常は、この2種類の組み合わせで手術を行いますが、最近は圧倒的に多いのが、腹腔鏡手術で病巣だけを取る方法です。

図6:腹腔鏡手術

なぜこの組み合わせが一番多いかと言いますと、やはり内膜症の患者さんは若い方が多く、妊娠を希望される方が多いからです。そのような方には子宮や卵巣を全部取るわけにはいきません。病巣だけを切除し、手術後の癒着防止など、妊娠機能を維持するための対応を取るようにします。

また腹腔鏡が増えている理由としては、低侵襲であるため、開腹手術に比べて負担が少なく入院期間も短く済むということが挙げられます。また美容上も傷跡が目立たないという利点があります。このように、社会的、美容的理由が、腹腔鏡手術が今日中心的な手法になっている要因です。

更に、腹腔鏡のメリットとしては、手術中に局所を拡大できるという点、またそれによって骨盤の奥深くまで正確に視野に入れることが出来るという点が挙げられます。内膜症が起きる場所は骨盤内でも深いところが多く、腹腔鏡によって、それらの位置関係などがはっきりと分かり、安全で完遂度の高い手術を実施し易くなるのです。このように、腹腔鏡はメリットが大きい上にデメリットが特にないため、積極的に行われるようになりました。唯一のデメリットを上げるとすると、術者の手技の問題です。内膜症の腹腔鏡手術は、他の腹腔鏡手術と比べても非常に難しい部類に入ります。しかし、ひとたび腹腔鏡の手技に修練した婦人科医であれば、開腹手術に戻る必要はないと思います。

一般的に「腹腔鏡手術」というと、「早期の病気」に限って行う低侵襲の手術という認識があり、進行した状態では開腹手術に成績が劣る、と考えられていることが多いと思いますが、内膜症に関しては、逆なのです。重症で進行している病状であればあるほど、腹腔鏡手術のメリットが大きくなるのです。

診療に当たって気をつけていること

当院において常に心がけていることは、いかに一人ひとりの患者さんの状況を丁寧に考慮して、個別化した治療法を提供できるか、ということです。一人ひとりが置かれている状況は違いますし、その人のライフステージによって希望が変わってきます。妊娠を希望するのか、がん化予防を優先するのか、などなどきめ細かく要望をお聞きしながらトータルなサポートを提供したいと考えています。そのためには、ホルモン治療から腹腔鏡治療まで全ての治療法に精通している必要があります。

また、当院は大学病院である強みとして他科との連携があります。内膜症は婦人科領域以外にも膀胱や直腸に出来ることもあるため、泌尿器科や外科と共同で治療にあたることも多々あります。どのような内膜症にも対応できるというのが当院の強みだと考えています。

治療後に注意すべきこと

内膜症という病気は、がんなどと違い病巣を切除して終了、という訳にはいきません。そのため、ぜひ知っておいてほしいことは、「内膜症は再発をする」ということです。月経が続く限り月経血の逆流はおこりますので、それによって新しい内膜症を発症する方も多いのです。手術をしておしまい、というわけにはいかないのです。
そのため、内膜症の治療においては手術後のフォローが非常に大事になってきます。この病気では、再発や不妊、がん化などがその後のライフステージで起きる可能性があります。われわれ医療者としては、内膜症という病気を患者さんの生涯を通じた「慢性疾患」と捉えて、病診連携などを有効活用しながら術後のフォローを長期的に行うことが必要と考えています。

予防について

先に述べたように、若い女性で「月経困難症」という状態の方がいらっしゃいますが、月経困難症の方はそうでない方に比べて内膜症に2.6倍もなりやすいことが分かっています。そのような方に、「低用量ピル」と言われるホルモン剤を服用してもらうことで、内膜症の発症が予防できる可能性が最近になって分かってきました。そのため、予防のための低用量ピルを処方する取り組みを日本子宮内膜症啓発会議の主導のもと行っています1)
一方、わが国は、先進国の中でも低用量ピルの使用がもっとも遅れている国となっています。血栓症などの副作用は報告されていますが、その頻度は決して高いものではありません。内膜症という、女性に取って非常につらい病気を事前に予防するためにも、月経困難症の方に対する低用量ピル服用の啓蒙活動を続ける必要があると考えています。

最後に

内膜症は、患者さんと医師が共に一生付き合う覚悟を必要とする病気です。再発が多く、根治療法はありません。そのため、患者さんと医師が信頼関係を構築することが重要です。患者さんには、ぜひ今のライフステージで何を最も望んでいるのか、ということを医師に伝えていただきたいと思いますし、われわれ医療者側は、患者さんが希望する全ての状況に対応できる治療法を、ベストな状態で提供するべく日頃から努力する必要があると考えています。

参考文献
1) 日本子宮内膜症啓発会議 http://www.jecie.org/

(このインタビューは2013年10月取材のものです。)

 

こちらの記事は「意気健康 07冬号」の女性の病気特集に掲載されたものです。