CLOSE
CLOSE

ACCESS

学校法人日本医科大学

〒113-8602
東京都文京区千駄木1-1-5

03-3822-2131

学んで、読んで、いきいきけんこう。 意気健康

女性の病気特集  更年期障害

Webマガジン -知って深まる家族のキズナ-『女性の病気特集』part.3 更年期障害 日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科部長 朝倉 啓文

イライラする、体がほてる、汗をかきやすいなど、ある一定の年齢になると、このような更年期症状をきたす女性が多くなります。「更年期障害」とは、更年期症状によって日々の生活に大きな支障が出てしまう状態です。今回は、多くの女性を悩ます更年期障害について、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科部長の朝倉啓文(あさくら ひろぶみ)先生にお話を伺いました。

更年期とエストロゲン

女性のライフサイクルにおいて、月経(生理)がなくなる時期を更年期とよびます。一般的には50歳を境に月経が止まるため、その前後5年くらい、45歳〜55歳が更年期となります。女性は更年期に入ると、月経の間隔が不順になり、徐々に短くなります。また月経がある月とない月が出るなど、不規則な状態になる方もいます。そして、その後月経が完全に止まる「閉経」という時期をむかえます。一般的には、月経が一年以上ない状態を閉経と定義します。

図1:年齢と女性ホルモン(エストロゲン分泌量)

月経が止まる原因は、図1のように卵巣から分泌される女性ホルモンの「エストロゲン」がこの時期に急激に減少するためです(図1)。エストロゲンは卵巣の中にある「卵胞」から作られますが(図2左)、50歳頃になると、この卵胞からのホルモン分泌がなくなってしまうのです(図2右)。そのため、エストロゲンも作られなくなります。

図2:卵巣内の卵胞と、加齢と卵胞数のグラフ

図3:更年期のプロセス女性の卵巣は、思春期に女性ホルモンの分泌を始め、初潮を迎えたあと、20代、30代でもっとも働きが活発になります。更年期に入ると卵巣機能は低下し、卵巣内の卵胞が枯渇し、エストロゲンの分泌が減少します。その後、卵巣の機能は完全に停止することになります。
エストロゲンという女性ホルモンは、一言でいうと、女性らしさを形作るホルモンといえます。たとえば、皮下脂肪を増やし、丸みを帯びたからだを作り、子宮の壁を厚くし妊娠に備え、乳房の成熟を促します。また、骨量や自律神経のバランスを保ち、コレステロール値もコントロールします。このように、エストロゲンにはさまざまな働きがあるのですが、更年期にエストロゲンの分泌量が減少すると、子宮内膜を厚くする働きがなくなります。月経とは、厚くなった子宮内膜が周期的にはがれる状態ですので、エストロゲンがなくなると月経もおきなくなるのです(図3)。

更年期障害とは?

エストロゲンの減少は、閉経だけでなく、それ以外にもさまざまな症状をおこします。これら更年期におきる症状を総称して「更年期症状」とよびます。更年期症状そのものは、女性であればほとんどの方が多少なりとも経験します。このような更年期症状が日常生活に差しさわるレベルに達した状況を「更年期障害」といいます。

更年期障害の成り立ち

更年期障害の原因として大きな要素を占めるのは、前述のようにエストロゲンの分泌量の減少です。一方で、更年期は女性の人生において生活環境が大きく変わる時期でもあります。この時期は、今まで面倒を見てきた子どもが自立し、子育てが終了することで「空の巣症候群(empty-nest syndrome)」とよばれる心に空白が生じた状態になったり、夫の定年、親の介護、離婚、死別など、人間関係や生活環境に大きな変化があったりします。更年期障害では、これらの環境変化にうまく対応できず、気分障害や不安障害のような症状で悩まれる方も多くいます。
そのため、更年期障害の原因を考える上では、エストロゲンの減少という「内分泌学的要因」に加えて、女性が置かれた環境によって生じる「社会心理学的要因」や、本人の性格や気質など「その他の要因」も考慮することが必要不可欠になります(図4)。

図4:更年期障害の成り立ち

更年期症状とは?

図5:更年期障害の症状更年期障害の代表的な症状としては「ホットフラッシュ」とよばれる「ほてり」や「のぼせ」があります。これは、エストロゲンの減少によって血管作動神経がうまくコントロールできなくなり、その結果おこる症状です。突然、仕事中などに大量の汗がでることや、不眠になるほどひどい汗を就寝中にかく「多汗」も典型的な症状です(図5)。
また、このような典型的な自律神経失調症的な症状に加えて、無気力感、不安感、憂鬱感、不眠といった精神的な症状も多くみられます。さらに肩こりや腰痛など、精神的な症状をきっかけにして肉体的な症状に悩まされる方もいます。

更年期障害の問題点として特に危惧されるのは、更年期の症状がその後の老年期の病気につながってしまうことです。たとえば、エストロゲンが不足すると、心臓に酸素を送り込む冠動脈が障害されることがあるのですが、場合によっては急性心筋梗塞につながる危険性もあります。また、更年期に骨量が減ることで骨がもろくなり骨折などを起こす方もいらっしゃいますが、その後の寝たきり状態や、認知症につながることもあります。このように、人生において環境変化がとても激しい時期に、同時にエストロゲンの減少という身体の変化が加わってしまうのが更年期であり、更年期障害をきっかけに老年期の病気につながってしまうのです。そのため、更年期とは「老年期にいたる玄関」と考え、この時期をご自分の健康について見直すきっかけにしていただきたいと思います。

更年期障害の診療体制

さて、それでは上記のような症状が現れたときは、どこに行けば良いのでしょうか?更年期障害は婦人科における一つの領域になりますので、婦人科は第一選択肢になります。一方で婦人科だけではなく、更年期障害の治療は内科や耳鼻科、精神科や心療内科、整形外科など、多くの診療科と連携することが必要になります。近年は女性のさまざまな病気をワンストップで診療しようという流れの中で「女性専門外来」など、婦人科疾患を中心に女性に特化した専門外来も増えてきましたので、そのような診療科を受診するのも良いでしょう。
更年期障害は、原因と症状が多岐にわたるため、一つの診療科だけでなく、横断的な取り組みが必要となります。近年、多くの病院では「総合診療科」や「総合内科」などとよばれる、あえて病気を専門化、細分化せずに一人の患者さんを多角的な視点で診療する部門が増えています。それと同様に、更年期障害の診療も「更年期女性の総合診療科」もしくは「50歳以降の総合婦人科」という考えに基づいた体制での診療が必要となるのです。

診断について

更年期障害の診断については、エストロゲンを補充することで症状が消えれば、その症状は更年期症状であったことが分かります。エストロゲン不足が原因の症状は、エストロゲンの補充により著しく改善されます。そのため、ホルモン剤を補充して症状が良くなるかどうか、それが診断の一番のポイントになります。

治療法について

図6:更年期障害の治療法治療法については、現在三つの方法があります。一つ目は、エストロゲンを中心とした女性ホルモンの投与です。これをホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy, HRT)といいます。以前は注射をしていましたが、現在は内服薬や塗り薬、貼り薬を用います。二つ目は漢方薬です。自覚症状はあるが検査では明確な原因が分からない不定愁訴など、HRTでは十分な効果の出ない症状に対して主に用いられますが、長期に使用しても副作用が少なく特に不眠に対しては有効な結果が臨床試験でも確認されています1)。そして三つ目に、抗不安薬などの向精神薬の投与があります。ただし、その場合は精神科や心療内科と連携を取りながら治療を行います。

HRTではエストロゲンを投与することが多いのですが、エストロゲンを単独で使用するよりも、プロゲステロンとよばれる黄体ホルモンと一緒に服用することが勧められています。その理由としては、エストロゲンを単独で投与した場合、子宮壁の肥厚を促し、子宮がん発生の危険性が上がってしまうことが確認されているからです。そのため、プロゲステロンを同時に使用することで、エストロゲンの副作用を緩和させる必要があるのです。手術などで子宮を切除した人は子宮がんになる心配がないため、エストロゲンを単独で使うことが出来ます。

米国では、HRTが更年期症状に非常に良く効くため、HRTが更年期障害の治療法として非常に勧められた時期があったのですが、2002年の大規模な臨床研究において、HRTによって心臓病や乳がんなどの発生率が上昇したという結果が出たため、それ以降積極的な使用が控えられていました2)。しかし、2013年5月に発表された英国更年期学会の報告によると、個々人が副作用に気をつけながらHRTを行う場合には、特に60歳以下の場合はHRTの効果がリスクよりも上回ると結論づけています。また60歳以上であっても、低容量で経皮的な投与であれば望ましいとしています3)。このように、HRTを行う場合は、個人の状況を勘案しながら、主治医と共に治療を進めることが大切です。

更年期障害の治療では、この他にも生活習慣の改善が有効です。更年期というのは、その後の老年期につながる「入り口」です。更年期という玄関で一度自らの健康状態を再確認し、老年期に備えることが非常に大事になります。

最後に

日本医科大学武蔵小杉病院は、全国的にもお産の数が非常に多く、当科は地域の周産期医療の中心を担っています。一方、最近は高齢出産の方も非常に多くなりました。そのような方は、出産の時期が遅い分、更年期に入っても子育てをしていく必要があります。そのため、これからの時代の更年期における女性のケアは、これまで以上に社会的重要度が増していきます。更年期症状と思われる症状がでた場合は、ぜひ早めに医療機関を受診するように心がけてください。

参考文献
  • 1) Terauchi M, et al. Effects of three Kampo formulae: Tokishakuyakusan (TJ-23), Kamishoyosan (TJ-24), and Keishibukuryogan (TJ-25) on Japanese peri- and postmenopausal women with sleep disturbances. Arch Gynecol Obstet. 2011 Oct; 284 (4): 913-21
  • 2) Rossouw JE, et al. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results From the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002 Jul 17; 288(3): 321-33.
  • 3) Panay N, et al. The 2013 British Menopause Society & Women's Health Concern recommendations on hormone replacement therapy. Menopause Int. 2013 Jun; 19(2): 59-68.

(このインタビューは2013年11月取材のものです。)

 

こちらの記事は「意気健康 07冬号」の女性の病気特集に掲載されたものです。