CLOSE
CLOSE

ACCESS

学校法人日本医科大学

〒113-8602
東京都文京区千駄木1-1-5

03-3822-2131

学んで、読んで、いきいきけんこう。 意気健康

女性の病気特集  貧血

Webマガジン -知って深まる家族のキズナ-『女性の病気特集』part.5 貧血 日本医科大学付属病院血液内科部長 猪口 孝一

疲れやすい、全身がだるい、集中できない、そういった経験はありませんか?意外と知られていませんが、これらの症状は貧血によっても引き起こされます。貧血は若い女性に多い病気ですが、医療機関できちんと診断されている方はあまり多くありません。今回は貧血のなかでも体の鉄分不足が原因となる鉄欠乏性貧血の一般的な知識と気を付けておきたいことについて、日本医科大学付属病院血液内科部長の猪口孝一(いのくち・こういち)先生にお話しを伺いました。

貧血とは?

図1:貧血の指標貧血とは、血液中にある「ヘモグロビン(Hb)」というタンパク質が減少した状態を指します。専門的には「正常範囲を超えた血液単位あたりのHb量の減少」と定義されます。Hbは赤血球の中にあり、その働きは体が呼吸によって取り込んだ「酸素」と結合して、全身に酸素を運搬することです。そのため、Hbが減って貧血になると体に必要な酸素が不足してしまいます。

世界保健機関(WHO)では、図1のように貧血の指標を発表しています。これを見ても分かるように、Hbの値は年齢や性別によって変わり、それに従い貧血の基準も変わってきます。
貧血になる原因はたくさんあり、主に赤血球の大きさの違いによって分類されていますが(図2)、今回は特に女性に多く見られる「鉄欠乏性貧血」について解説します。

図2:貧血の主な分類

さて、貧血の起こり方には2種類あり、急性に起きる場合と、慢性的に進行する場合があります。外傷などによる出血でみられる急性の貧血では、たとえば元々Hbが13g/dlあった方が8g/dlに下がるといった軽度の貧血であっても、動悸や息切れなどの症状が強く現れます。一方、慢性的に進行する貧血では、Hbが3g/dlまで減少しているにもかかわらず自覚症状の無い方がいます。
貧血で最もよく見られる症状は全身の倦怠感や疲労感です。これらの症状によって集中力の欠如など生活の質が落ちてしまうことがしばしばあります。また、貧血が進むと、不足する酸素を補うために、脈が速くなる(頻脈)、動悸がする、息切れがするといった心不全と同様の症状が現れるようになります。さらに、身体所見としては、爪の形がスプーン状に変形したり、皮膚や粘膜が白く変色したりします。他にも全身症状として黄疸や消化器症状、筋肉の萎縮がみられることがあります(図3)。

図3:貧血の主症状

貧血に潜むリスク

貧血の主な症状貧血がなぜ怖いかというと、多くの場合、貧血には隠れた病気が潜んでいることがあるからです。たとえば、がんや白血病、子宮筋腫などは、その症状の一つとして、貧血を引き起こします。そのため、貧血の診断は、その背後にある病気の目安となります。貧血があることで「何か原因となる基礎疾患があるな?」と推測できるのです。
実際に、若い女性では、生理不順、月経過多、子宮筋腫、子宮内膜症といった婦人科領域の疾患、高齢者では、胃潰瘍、大腸がんなど消化関係の疾患が多く見られます。このような、貧血の裏に隠れている疾患を見逃さないことがとても大事になってきます。

また、鉄欠乏性貧血は若い女性に多いのですが、実は本人も気付いていない「隠れ貧血」が多いことも分かっています。実際には女性の1/4~1/3は貧血予備軍と言われています。そのため、疲れやすいなど少しでも症状がある場合は、貧血の可能性を考慮すべきです。
一方、若い男性で貧血になる方はあまり多くありません。ただし、スポーツ、特に長距離ランナーの方では鉄欠乏性貧血が見られることがあります。というのも、足の裏を強く踏むことで、赤血球が壊れてしまい、その結果として貧血を引き起こしてしまうのです。

早期発見のポイント

若い女性の場合は、月経の状態が一つの目安になります。月経過多や生理不順などは注意が必要です。ただし、通常、自分の月経量が多いのか少ないのかについては他人と比較することも難しく「これが普通なのかな?」と思われている方も多いと思います。若い女性の場合は、検診などで定期的に採血する機会があまりないため、少しでもおかしいと思ったら積極的に医療機関を受診し、血液検査をするように心がけてください。また、家族やパートナーの気遣いも大切です。女性の顔が普段より白くなっていたり、疲れていたりした場合は、一度は血液内科や婦人科を勧めることが重要です。
一方、ご年配の方の場合は定期検診などを受けている方が多いため、経年的にHbの状態を比較でき、貧血の有無を確認することが可能となります。また、胃潰瘍や胃がん、大腸がんなどによって消化管内で出血が見られるときは、黒色便、血便そして黒いのりの佃煮状の便が見られます。なかなか自分の便の色を見るのも大変ですが、もし黒色の便が見られたら医療機関を受診し、便潜血の検査を受けてください。

検査・診断について

貧血の検査では、まず一般的な血液検査を行います。その後、必要に応じてレントゲン検査や骨髄検査などを行います。貧血には複数の原因があり、鉄欠乏性貧血のように鉄分不足や出血によるもの、骨髄で赤血球が作れない病気や作っても壊れてしまう病気など多岐にわたります。そのため、医療機関で検査を行い、しっかりと診断を確定することが重要となります。
貧血を疑った際に受診される診療科としては、やはり血液内科が理想的です。血液検査においても、血液内科の検査は、血液疾患の診断に必要な多くの検査項目に対応しており、早期診断がしやすくなるからです。その他にも、骨髄に針を刺して細胞を採取する骨髄検査なども血液内科が専門としています。
貧血の原因が明らかになると、その原因疾患に対して治療を行うことになります。その場合は、その原因疾患を専門とする他の診療科と協力し、連携をとりながら治療を進めることになります。

治療法について

貧血の多くは、その原因となっている基礎疾患の治療を行うと改善します。ただし、重度の貧血の場合は輸血を行うこともあります。
鉄欠乏性貧血の場合は、主な治療法として鉄剤の服用があります。鉄剤は文字通り鉄なので、さびの味がするため飲みやすいものではありません。そのため小児の場合はシロップ状にしたりするのですが、成人でも吐き気を起こしたり胃の調子を悪くしたりと内服が困難な方もいます。そのような場合は、静脈注射を用いることもあります。
鉄欠乏性貧血であれば、鉄剤による治療で貧血自体はすぐに改善します。ただし、月経過多や生理不順が原因の鉄欠乏性貧血では、場合によっては閉経期になるまで鉄剤の服用が必要になります。その他の疾患が原因になっている場合も、その原因を治療し取り除かない限り、根本的な治療にはなりません。

予防に置いて気をつけるべきこと

貧血に限らず、よく言われることではありますが、三食しっかりと、偏食をせずにバランスの良い食事を取ることが大事です。ダイエットのために一食を抜くという生活を送っている方に、貧血が多いという事実があります。通常、食事の中に必要な鉄分は十分含まれています。ですから、きちんとした食生活がなにより大切だと言えます。
また、鉄分の多い食事を心がけることもよいでしょう(図4)。一番効果的なのは「レバー類」です。レバーには血液そのものが入っているため、腸管で吸収されやすいのです。鉄がHbに近いヘム鉄の状態で吸収されるため、摂取効率の良い食材となります。また「青菜」も鉄分が豊富ですが非ヘム鉄であるため、レバーと比べると、吸収効率は落ちます。
一方、「タンニン」というタンパク質は、腸管における鉄分の吸収を抑制する働きがあることが分かっています。そのため、タンニンを多く含むお茶やワインなどは、鉄剤を服用する時間の前後は飲まないようにしましょう。

貧血診療で必要なこと

大学病院を受診される貧血患者さんの多くは、貧血の原因となる基礎疾患を抱えている方も多く、1、2回の受診では治療が終了しない場合がほとんどです。そのため、早期から患者さんと医師が信頼関係を構築することが非常に重要になります。診断、治療方針、その後のケアなど、共通の目標に向かって共同作業を行うようなスムーズな関係が必要となるからです。
この共同作業を進めるためには、患者さんが初めて来院される「初診外来」が非常に大事です。時間はかかりますが、しっかりと患者さんの話に耳を傾け、患者さんが何を訴えているか、何を求めているのかなどを知る必要があります。貧血に関して言えば、この初診外来でしっかり話を聞くだけで、7、8割の診断はつきます。

貧血は他の命に関わる病気を見つけるバロメーターとして、非常に重要なサインです。たかが貧血、されど貧血という心構えで、少しでも「おかしいな」と思ったときは、血液内科を受診してみてください。(構成:ブランド推進室)

(この記事は2014年1月取材時点の情報です)

 

こちらの記事は「意気健康 08春号」の女性の病気病特集に掲載されたものです。