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女性の病気特集  甲状腺疾患

Webマガジン -知って深まる家族のキズナ-『女性の病気特集』part.6 甲状腺疾 日本医科大学付属病院糖尿病内分泌代謝内科 部長 杉原 仁

甲状腺という臓器は喉の前面にある小さな臓器で、人間の代謝にとって大事なホルモンの分泌を担っています。甲状腺の代表的な疾患には、その機能が過剰に働いてしまう「甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症)」と、逆に機能が低下してしまう「甲状腺機能低下症」があります。今回は甲状腺疾患のなかでも特に女性に多い疾患に注目し、甲状腺機能亢進症として「バセドウ病」と、甲状腺機能低下症として「橋本病」の一般的な知識と注意したいことなどについて、日本医科大学付属病院糖尿病内分泌代謝内科部長の杉原仁(すぎはら ひとし)先生にお話しを伺いました。

女性に多い甲状腺の病気とは?

図1:女性に多い甲状腺疾患女性に多い甲状腺疾患の代表として「バセドウ病」と「橋本病」があります。バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の代表的な疾患で、甲状腺ホルモンを「過剰」に分泌してしまいます。一方、橋本病は甲状腺機能低下症の代表的な疾患で、体に必要な甲状腺ホルモンが「不足」してしまいます(図1)。

図2:甲状腺疾患の男女比このように、バセドウ病と橋本病はちょうど真逆の状態(ホルモン産生が過剰な状態と不足している状態)にある疾患ですが、共に「自己抗体」と呼ばれる自己の組織を誤って攻撃してしまうことで生じる「自己免疫疾患」に分類されます。男女差による発生頻度では圧倒的に女性が多く、バセドウ病では男女比は1:7〜10、また橋本病では1:10〜20となります(図2)。
ちなみにバセドウ病の名前の由来は19世紀半ばにドイツのバセドウ医師とアイルランドのグレーブ医師によって報告されたことに由来します。そのため、英語圏ではバセドウ病のかわりにGrave’s diseaseと呼ばれています。一方、橋本病という名称は、九州大学の橋本策医師によって20世紀初頭に初めて報告されたことに由来します。

自己免疫疾患としてのバセドウ病と橋本病

図3:甲状腺ホルモンの分泌調節甲状腺は図3のように、トリヨードサイロニン(T3)やサイロキシン(T4)といった甲状腺ホルモンを分泌する臓器ですが、これらのホルモンは甲状腺刺激ホルモン(TSH)と呼ばれる脳の下垂体から分泌されるホルモンによって調整されています。TSHがたくさん分泌されれば、甲状腺はそれに反応し、甲状腺ホルモンであるT3やT4を多く産生します。TSHは甲状腺の表面にあるTSH受容体に結合することで、甲状腺ホルモンの分泌を促すのです。

1. バセドウ病の原因

図4:バセドウ病の病態バセドウ病では、甲状腺の表面にあるTSH受容体に自己抗体が結合することが病気の原因となります。図3のように、本来TSHは、T3やT4といった甲状腺ホルモン量の多寡によってフィードバックがかかり、下垂体からの分泌が調節されています。しかし、バセドウ病の原因となる自己抗体(TRAb)はTSHと同様の作用を、T3、T4のフィードバックを受けずに行ってしまいます。そのため、T3、T4がすでに過剰にある状況でも、かまわずTSH受容体を刺激して、更なるT3、T4の分泌を促してしまうのです(図4)。

2. 橋本病の原因

一方、橋本病では、リンパ球のひとつであるT細胞を中心に、自己抗体も一緒になって、甲状腺細胞を破壊してしまいます。自己抗体としては、甲状腺の酵素の一つである「ペルオキシダーゼ」に対する抗体(抗TPO抗体)や、甲状腺ホルモンの元になる「サイログロブリン」というタンパク質に対する抗体(抗Tg抗体)があります。このように、バセドウ病とは逆に、T細胞や自己抗体による攻撃的な免疫反応が甲状腺組織に対しておきるため、組織が破壊されて甲状腺ホルモンの分泌が低下してしまうのです(図5)。図5:橋本病の病態

バセドウ病と橋本病は両方とも、それぞれ免疫異常によっておこることは分かっています。しかし、残念ながら「なぜ免疫異常が発生するのか?」については現時点ではまだ明らかにされていません。遺伝的要素、環境因子(ヨード摂取や喫煙)、女性ホルモンの状態などが複雑に絡み合って発症に関わっているのではと考えられています。

症状について

それでは、バセドウ病と橋本病の症状にはどのようなものがあるでしょうか?T3やT4といった「甲状腺ホルモン」は、一言で言うと「新陳代謝」に関わるホルモンです。そのため、バセドウ病や橋本病では、主に代謝に関する症状が出てきます。

バセドウ病

バセドウ病の特徴的な症状としては、「メルセブルグの三徴」と呼ばれる甲状腺腫大(甲状腺が大きくなること)、眼球突出(目が飛び出たようになること)、頻脈(脈が速くなること)の三つが有名です。他にも代謝が活発になることで生じる多汗、手指のふるえ(震戦)、食欲増加とそれにもかかわらずおきる体重の減少、下痢、月経異常などの症状があります。また、カリウムが不足することで生じる「周期性四肢麻痺」や、場合によってはさまざまなストレスを契機に「甲状腺クリーゼ」と呼ばれる、生命にも影響を及ぼす重症な合併症を生じ、集中治療が必要な場合もあります。(図6)。このように、バセドウ病の症状は多岐にわたるため、初診時は耳鼻科、婦人科、循環器内科、神経内科など色々な科にまたがって受診することが多くあります。

橋本病

バセドウ病と同様に、橋本病でも甲状腺が腫大します。症状としてはバセドウ病とは逆に代謝が落ちることによってもたらされる体重増加、全身の疲れ、皮膚の乾燥、便秘、徐脈、脱毛、月経過多などが見られます(図7)。また、治療せずに放っておくと、次第に低体温や換気障害、昏睡状態など、バセドウ病と同様に重症になることもあります。ただし、大部分の方で甲状腺ホルモンが上昇して症状をきたすバセドウ病に対して、橋本病の場合は、実際に甲状腺ホルモンが低下するのは30%程度で、症状がない方も多くいます。

図6、7

検査と診断について

甲状腺疾患は、臨床所見、血液検査、画像検査などによって、ガイドラインに基づき診断していきます1)

バセドウ病

バセドウ病では先述の典型的な三徴や代謝亢進症状から疾患を疑い、血液検査を行います。バセドウ病の方の特徴としては、T3、T4といった甲状腺ホルモンの上昇、TSHの低下があります。さらに、自己免疫疾患を引き起こす自己抗体である抗TSH受容体抗体(TRAb)が陽性になります。また、甲状腺ホルモンの産生が増加するのに伴い甲状腺に取り込まれるヨードが高くなるため、シンチグラフィという検査で放射線ヨード甲状腺摂取率が高値を示します。

橋本病

橋本病の場合は、症状がでないことも多いのですが、甲状腺の腫大、血液検査での甲状腺ホルモンが低下、とTSHの上昇が特徴的な所見となります。また、抗ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性になります。

バセドウ病も橋本病も、診断のきっかけとしては実際の症状が出てからということになりますが、一方で、健康診断などでも早期発見につなげることはできます。甲状腺ホルモンが過剰だと、コレステロールが低めになったり、ホルモンが骨に作用してALPという酵素が高くなることもあります。逆に、甲状腺ホルモンが不足しているとコレステロールが高めになったり、筋肉の酵素であるCPKが高めになったりします。このように、一般的な血液検査からも、ある程度は甲状腺疾患を疑うことが出来ます。

治療法について

バセドウ病
薬物治療が初期治療になり、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬であるチアマゾールやプロピルチオウラシルを用います。1、2年間の間、定期的に血液中の甲状腺ホルモン量を測定しながら、濃度を正常範囲に保つようにします。副作用としては、非常に稀ですが白血球が減少する重篤な無顆粒症や、肝障害などがあります。これらの副作用は治療開始から2、3ヶ月以内にでることが多いため、特にこの期間の定期的な観察はガイドラインでも決められているように重要になります。

薬物治療に成功しても再発の可能性があるため、患者さんの中には薬の服用を中止せず、長期間、少量を継続する方も居ます。基本的には2年間の治療後に状況の改善が見られない場合は、別の治療法(放射性ヨード治療や手術)を検討することになります。
放射性ヨード治療は、放射性同位元素でラベルしたヨードを服用して甲状腺に取り込み、甲状腺細胞を破壊し甲状腺ホルモンの分泌を抑制する治療法です。この方法の副作用としては、甲状腺細胞が減りすぎて甲状腺機能低下症になってしまう場合があることと、放射線治療であるため、妊娠・授乳中には行えないことが挙げられます。
また手術では、甲状腺の大部分を切除し、一部のみを残す「甲状腺亜全摘術」という方法を行います。分泌される甲状腺ホルモン量の調節を、手術後に残存した甲状腺で行うのです。再発することは少ないのですが、手術で甲状腺をどの程度残すかが手術後の薬の服用の有無に関係します。。また、手術の場合は、手術による合併症のリスクもゼロではないことを注意しなければなりません。

橋本病

先述のように橋本病と診断されても甲状腺機能の低下がみられない場合は、治療の必要はありません。一方、甲状腺機能の低下が見られる場合は、補充療法として甲状腺ホルモンを服用します。一般的には副作用に注意しながら、T4製剤を徐々に増やし、甲状腺ホルモンの濃度を調整します。

気を付けること

どちらの病気も自己免疫疾患であり原因が同定されていないため、予防は難しい面があるのですが、なるべくストレスは避けたほうがいいと考えられています。ただし、バセドウ病では喫煙が症状を悪化させる要因であることが分かっているため、禁煙が必要になります。

また、ヨードを過剰に取りすぎると、甲状腺ホルモンの分泌が低下することが知られています。ヨードは昆布などに多く含まれていますが、適度な摂取を心がけましょう。

最近のトピックス

妊娠中の甲状腺疾患治療について、分かってきたことがあります。まず、バセドウ病に関しては、二つある治療薬のうち、妊娠初期の段階ではチアマゾールにくらべてプロピルチオウラシルの方が胎児に対する副作用が少ないとされています。一方、妊娠中期以降はチアマゾールでも問題はありません。

また、橋本病など甲状腺機能低下症では、妊娠初期の段階で、甲状腺ホルモン量を正常範囲の上限に保つように治療を行うのが良いということが分かってきました。妊娠初期には胎児のさまざまな臓器が形成されるため、母親の甲状腺ホルモン量が低いと、胎児の脳の発育に影響する可能性あるからです。このように、妊娠期間に応じたホルモン補充療法の調節の重要性が共通認識になっています。

最後に

今回はバセドウ病や橋本病について説明してきましたが、女性の場合は妊娠を契機に甲状腺ホルモンが増減するということが多々あります。これによって生じる甲状腺疾患を「出産後の甲状腺機能異常症」といいますが、妊娠出産によって免疫状態が変化するためと考えられています。また、妊娠中に胎盤由来のホルモンが母体の甲状腺を刺激し、一過性に甲状腺中毒症を起こすこともあります。さらに、甲状腺ホルモンの状態によっては、妊婦さんに不育症が起きやすくなることも分かってきました。このようなことから、女性の場合、特に妊娠期間中は、甲状腺ホルモンをきちんと一定の正常範囲内にコントロールすることが大事になります。

甲状腺疾患の多くは、患者さんは長く病気と付き合っていかなければなりません。また、妊娠出産などライフサイクルにあわせた治療を適切に行うためにも、医師にご自身の希望や状況をしっかりと伝えることが重要です。

1):甲状腺疾患診断ガイドライン2013(2013年6月改訂)

(構成:ブランド推進室)

(この記事は2014年1月取材時点の情報です)

こちらの記事は「意気健康 08春号」の女性の病気に掲載されたものです。