CLOSE
CLOSE

ACCESS

学校法人日本医科大学

〒113-8602
東京都文京区千駄木1-1-5

03-3822-2131

学んで、読んで、いきいきけんこう。 意気健康

子どもの病気特集  総論

タイトルイメージ:子どもの病気特集

子どもは未来の大人であり、将来の世界を創るのは現在の子どもたちです。その子どもたちの健康を守るのは社会の役目ですが、その中心を担うのが「小児科」です。しかしながら、小児科とはどのような場所なのか、何をしているのか等あまり知られていないのが現状です。そこで「意気健康」では、これから三回に分けて子どもの病気や小児の医療について特集いたします。第一回の今回は、日本医科大学付属病院小児科部長の伊藤保彦(いとう・やすひこ)先生に、子どもの病気について知っておきたい基礎知識と、先生の専門分野である小児の膠原病についてお話を伺いました。子どものいるご家庭や、子育てを支える周囲の方々にとって役に立つ医学知識という視点で、一般的な基礎知識から専門的な分野まで、分かりやすくお伝えします。

小児科とは?

小児科の定義

日本では一般的に15歳まで(中学生まで)の患者さんを対象に、主に内科的な疾患を診療する科を「小児科」と呼びます。ただし、15歳という年齢はあくまで初診時の年齢であり、15歳未満で病気になり、そのまま15歳以降も病気が続く場合には、引き続き小児科で診る場合もあります。

たとえば、大人も発病する病気をたまたま15歳未満で発病した、という場合には、15歳を過ぎたら内科などで診療を引き継ぐことになりますが、病気の中には子どもの時にしか発病しない、大人では稀な病気もあります。そのような場合には、患者さんが15歳以上になっても小児科で診療することもあります。実際に、当科では30歳を超えた患者さんもいらっしゃいます

このように、15歳未満で発病した患者さんを何歳まで小児科で診るべきか、という点に関してはまだ議論があります。

子どもの名称

小児科では年齢などによって患者さんの呼称が変わります(図1)。生後1カ月までを「新生児」、生後1カ月から1歳までを「乳児」、1歳から小学校に入るまでを「幼児」、小学生以降を「小児」や「学童」として分けるのです。子どもの場合は発達の段階に応じて患者さんの状態が大きく異なるためです。

「新生児」の最大のポイントは、顔に表情がなく、泣くこと以外に意思表示が出来ないという点にあります。また、少しでも栄養が不足すると生命に関わりますので、新生児では一刻をあらそうような状況が多く、診療の場も一般外来ではなくNICU(Neonatal ICU)と呼ばれる新生児に特化した集中治療室で行います。そのため、最近では、新生児だけを診る「新生児科」を作り、小児科から分けている大学や病院もあります。

一方「乳児」は1歳までの子どもを指しますが、1歳で区切るのは、子どもはだいたい1歳〜1歳半になると歩きだすためです。そのため、まだ歩行が出来ない時期と歩行が出来る時期では、子どもの状態も異なるので、「乳児」と「幼児」を分けるのです。「幼児」は1歳から小学校就学までの子どもを指し、その後は小学生、中学生となります。子どもは小学校に通いだすと社会性が生まれ、中学生になると思春期特有の悩みや病気が新たに加わります。

このように、小児科が扱う範囲は新生児から中学生、場合によってはそれ以降と非常に幅広く、お子さんが生まれたその瞬間から、われわれ小児科医の出番となるのです。

小児科と内科の違い

歴史的にみると、かつて小児科は内科の一部でした。しかし、「子ども」という特殊な分野を扱うということで、内科から発展的に分かれた経緯があります。そのため、診療内容も内科と重なる分野が多く、現在でも「内科・小児科」と掲げる診療所を見ることも多いと思います。ちなみに、日本小児科学会の前身である小児科研究会が発足したのは1896年で、約120年の歴史があります。

それでは、なぜ小児科は内科から分かれる必要があったのでしょうか?そこには、子どもと大人の病気の違いといった医学的な側面と、社会的な側面とが関係しています。

・医学的側面

子どもは大人と違い、成長・発達における「過程」の段階にあります。医学的にみると、大人のようにすでに体が完成した状態で生じる病気と、まだ発達段階にある状態で生じる病気では、根本的に病気としての質が違うことが多いのです。先天的障がいや新生児で起きる病気などは、いわば生まれた時点からの障がいであり、子ども特有の病気になります。

また、子どもの病気の特徴として、「免疫」や「感染症」といったキーワードがあります。子ども時代は、大人になってからの感染症の重症化を防ぐために、ありとあらゆる感染症にかかることで免疫をつけていく時期といえます。たとえば風邪の原因となる病原体一つとっても、名前さえ付いていないウイルスは無数にあります。子どもはこれらの感染症に順番にかかることで免疫を獲得していくのです。このように免疫の発達段階に伴う感染症が多いことが小児科の特徴で、慢性疾患の多い一般内科とは異なります(図2)。

さらに、小児科には小児科特有の手技や道具、薬の量というものがあり、大人の医療とは一線を画します。たとえば、聴診器一つとっても、小児科では「新生児用」「乳児用」「幼児用」「小児用」の4種類を用意する必要があります。血圧計も、大人とは異なるサイズを使用します。

・社会的側面

社会的な面としては、医療関係者や患者さんのなかには、子どもの扱いが苦手な方もいます。医療関係者や成人の患者さんからしてみると、診察をしている時に、隣で子どもが騒いでいると落ちつかない、やりづらいということがあるのです。一方、お子さんを持つ保護者は、自分の子どもの方が成人患者さんよりも緊急度が高いと感じる方も多く、一緒に並んで診察を待つという状況は感情的に落ち着かないという場合もあります。また、注射一つとっても、子どもの場合は血管が細く、泣きわめいたり、協力的ではないということがあります。

医療関係者のなかには、協力的ではない患者さんを扱うことや、子どもに可哀想なことをするのが苦手という方もいます。つまり、患者さん側だけではなく、医療関係者側としても、大人とは分けて子どもだけを扱ってほしいという要望があったと考えられます。

このように、医学的な面だけではなく、社会的な面もあわさって、100年ほど前から子どもと大人を別々に診るようになり、内科から小児科が分かれたのだと考えられます。

小児科の診療について

小児科の診療スタイル

他の診療科と比較した場合に、小児科診療の特徴の一つとして、子どもは症状の伝え方が直接的であるということがあげられます。たとえば、「どうしましたか?」という問診に対して、子どもは「熱が出ました」と要点だけを答え、会話が簡単です。一方、大人の場合は状況をいろいろと考えるあまり「熱がある」というところから話が始まらないことが多く、患者さんによっては何が最も重要な問題なのか分からなくなることもあります。

ただし、小児科では患者さんと直接コミュニケーションを取ることが難しいこともあります。患者さん自身に、症状に関するボキャブラリーが不足していたり、病気そのものに対する「慣れ」が大人と比べると不足していたりしますので、結果として他の診療科と比べると保護者の方との会話が多くなります。小児科医としては、話す相手が患者さん本人ではないということは注意を要する点です。すなわち、本当の症状が何であるのかということを保護者との会話と患者さんに対する診察によって見極める必要があるのです。また小児科医は、保護者ではなく患者さんである子どもの立場に立って考える必要があるため、時によっては保護者と対立してしまう場面も覚悟しなければなりません。

小児科でみられる症状

小児科でよくみられる症状としては、腹痛、発熱、発疹など多々あります(図3)。ただし、全ての症状が実際の病気と関係あるわけではなく、また症状があったとしてもあらかじめ病気の知識を持っていれば慌てずに済むことも多いのです。

たとえば、乳児期の後期、およそ生後6カ月から1歳の間に40℃ほどの熱が4日程度続き、解熱後に全身に発疹が出る「突発性発疹」という病気があります。多くの場合、お子さんが生まれてから最初の高熱の原因になる、ヘルペスウイルスによる感染症です。知っていると必要以上に恐れずに済む典型的な疾患です。

また、急激な発熱に伴って起こるひきつけである「熱性けいれん」なども、正常な成長過程において5歳未満のお子さんであれば誰でも起こす可能性があります。ひきつけ後も知能発達には全く問題ありませんが、実際に目の前でひきつけを起こされると保護者の方はびっくりされます。このような状態についてもあらかじめ知識があると慌てずに済みます。

このように小児科ではさまざまな病気や症状がありますが、事前に知識があることでパニックにならずに済むことも多々ありますので、ぜひ育児をされている方々には今回から始まる小児科特集を読んでいただければと思います。

予防接種に関して

小児医療の特徴として予防接種がありますが、予防接種に関しては、現在は1歳までに10種類以上の注射を受ける必要があります(図4)。ここでは特に肺炎球菌ワクチンとHib(インフルエンザ菌b型)ワクチンの重要性についてご説明します。

子どもはさまざまな感染症にかかりますが、私たち小児科医にとって非常に怖い感染症は「髄膜炎」といわれる、脳や脊髄を覆う膜に炎症が生じた状態です。髄膜炎は敗血症やけいれん、意識障害を起こす病気で、いったん敗血症になり血液の中に細菌が入ってしまうと、治療が難しく死に至ることもある怖い病気です。そして、細菌性髄膜炎の原因として最も多いのが、肺炎球菌とHibなのです。

昔は、小児科医がウイルス性の風邪に対して、ウイルスには効果のない抗生物質を処方することが多かったのですが、その主な理由は肺炎球菌やHibの2次感染予防、ひいては髄膜炎を予防することにありました。一方、風邪に対して抗生物質を多く使用することで、耐性菌の出現を許してしまうというマイナス面もありました。しかし、ワクチンによって、肺炎球菌とHib感染の重症化が防げるようになったため、髄膜炎が予防出来るようになり髄膜炎予防として風邪に対して抗生物質を出さなくてもよくなりました。そのような意味で、これらのワクチンの開発は医療的には革命的な出来事で、予防医療において大変な進歩をもたらしました。

小児の医療制度について

小児医療の医療費について

現在、小児科の外来診療に関しては、保険診療上、「小児外来診療料」という制度があります。他の診療科に比べて処置や薬や検査の少ない小児科を保護する意味もあり、3歳未満の患者さんの外来診療に関しては、小児科医は診療内容に関わらず包括的な医療費を請求出来る制度があります。この制度では、初診料、再診料、処方箋料しか請求しませんが、出来高払い制度に比べると小児科運営が健全に実施されるシステムになっています。

また、患者さんの立場から見ると、内容に多少の差はありますが、現在全ての地方自治体において子ども向けの「医療費助成制度」が普及しています。たとえば、東京都では原則中学生までは医療費は助成によって無料となっており、特に千代田区では高校生まで外来も入院も医療費の負担がありません(食事療養費を除く)。このように、医療費助成制度は国の制度ではありませんが、市区町村が独自の政策に基づいて実施している制度です。

一方、子どもの医療費が無料になることで生じる弊害もみられます。一つが夜間受診の増加です。受診時間に関わらず無料なため、保護者としては忙しい日中よりも夜間に受診しようという気持ちが生まれ、夜間の小児医療の需要が大きくなり小児科医の疲弊につながっている面も否めません。

さらに、子どもの医療費が無料化されたことで、国による難病の統計調査に問題が出てきました。昔は難病指定された病気に関しては、国に難病申請をして初めて医療費の助成を受けられたのです。そのため、必ず国に難病申請が行われ、それによって難病の患者数を把握するなど難病研究の発展に役立てることが出来ていました。一方、現在中学生まで医療費が無料になった東京では難病申請をする患者さんが減少してしまい、それによって難病研究の統計調査に弊害が出ている面もあります。

小児の救急医療について

小児救急医療体制

小児の救急医療体制の確立は、国としても大きな課題の一つです。救急医療には一次、二次、三次救急がありますが、各都道府県ではそれぞれの段階に応じてさまざまな取り組みを行っています。

たとえば、一次救急医療もしくは初期救急医療と呼ばれる医療は、入院を必要としない軽症患者さんのための医療ですが、多くの自治体では診療所の小児科医による当番制を敷いて、個々の診療所、もしくは自治体が運営する休日夜間急患センターなどで対応しています。一方、入院が必要な中等症の患者さんに対しては、救急指定病院などが二次救急医療体制で対応します。また、生命の危機を伴う重症患者さんに対しては救命救急センターが三次救急医療体制として対応します。

なお、東京都では、三次救急医療として小児専門の高度医療を小児ICUなどで行うことが可能な「東京都こども救命センター」を都内4カ所に設置しています。主に、急性期の救命処置を必要とする重症患者さんの対応にあたっています。

日本医大におきましても、平成22年から川崎市と共同で武蔵小杉病院に「周産期・小児医療センター」を設置し、NICU(新生児集中治療室)やGCU(継続回復室)を増床し整備してきました。地域住民の周産期・小児の救急受け入れ態勢を充実させるべく休日夜間の小児救急外来を行っています。

小児医療の情報提供サービス

東京都では、都民が医療に関する正しい情報を得て適切に小児救急医療が実施されることを目的に、さまざまな普及活動を行っています(図5)。たとえば、インターネットでは、「東京都こども医療ガイド」というサイトを立ち上げて未就学児を対象にした医療情報や子育て情報を提供しています。

また、電話相談としては「母と子の健康相談室電話#8000」として、母子の健康に関する相談と小児の救急医療に関する電話相談を行っています。また東京消防庁でも「東京消防庁救急相談センター 電話#7119」を設置し、小児に限らず疾病の緊急性や受診時期、受診科目に関する情報提供や、医療機関への案内、応急手当のアドバイスを行っています。

国民の意識変化の必要性

わが国の小児医療、小児救急医療を今後も充実させ持続させるためには、以上のようなツールなどを用いながら、受診者の皆様に、状況に応じてどの医療機関で受診するのが最適かということを知っていただく必要があります。そして、そのための情報提供を、国だけではなく私たち小児科医も積極的に発信して、医療資源の効率化と機能分化を進めていく必要があると考えています。

(構成:ブランド推進室)

(この記事は2014年8月取材時点の情報です)

プロフィール

伊藤 保彦

【 経歴 】
略歴:1983年、日本医科大学卒業、同小児科学教室入局。

88年〜91年、米国オクラホマ医学研究財団に留学(自己抗体の研究)、94年日本医科大学付属千葉北総病院小児科医局長、98年、日本医科大学小児科学講師、助教授を経て、2012年、日本医科大学大学院医学研究科 小児・思春期医学教授(主任教授)、日本医科大学付属病院小児科部長、14年日本医科大学教務部長。

日本小児科学会専門医、日本リウマチ学会認定指導医、日本アレルギー学会専門医。日本リウマチ学会評議員、日本小児科学会代議員、日本小児リウマチ学会会長(運営委員長)、日本疲労学会評議員、日本未病システム学会評議員、日本シェーグレン症候群学会理事、開成学園校医。

小児膠原病学・臨床免疫学専門。

こちらの記事は「意気健康 10秋号」の子どもの病気特集に掲載されたものです。