CLOSE
CLOSE

ACCESS

学校法人日本医科大学

〒113-8602
東京都文京区千駄木1-1-5

03-3822-2131

学んで、読んで、いきいきけんこう。 意気健康

生活習慣病特集  高血圧症

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.3 高血圧症 日本医科大学付属病院循環器内科部長 清水 渉

わが国の高血圧症患者は約4000万人。高血圧症が「国民病」と言われるゆえんです。また統計的には血圧が140/90mmHg以上の高血圧症患者は、30歳以上の男女で40%以上にものぼり、成人の半数近くが高血圧症になっていることがうかがえます。これから超高齢社会を迎える日本。患者数は今後も増える可能性があります。そこで今回は、多くの重篤な疾患に関わる高血圧症について、日本医科大学付属病院循環器内科部長の清水 渉(しみず わたる)先生に、お話を伺いました。

高血圧症の定義について

図1 高血圧の基準高血圧症という病気は、どのように定義されるかご存知でしょうか?一般的には、脳、心臓、腎臓などの体の臓器に悪影響をもたらし、脳卒中、心筋梗塞、腎機能障害などの重篤な疾患を引き起こすような血圧を、「高血圧症」と定義しています。日本高血圧学会では正常血圧を130/85mmHg未満とし、高血圧を140/90mmHg以上、その間を正常血圧高値としています(図1)。

血圧の測定方法について

さて、高血圧と診断するためには、血圧を正しく測る必要があります。そこで、日本高血圧学会では2011年に「家庭血圧測定の指針」を発表しました。指針では、朝と晩の二回の測定が勧められており、測定するときは、座位で1-2分間の安静後に、朝であれば起床後一時間以内に排尿後・服薬前・朝食前に測定し、晩であれば就寝前に測定することを示しています。
なお余談ですが、自動血圧計を購入する場合は、ぜひ上腕で測定する血圧計をお勧めします。手首や指で測定するものもありますが、精度の点からはお勧めできません。
また、血圧を測定するにあたっては、「どのような状況で測定したか」、ということもとても重要な情報になります。

図2 白衣性高血圧のイメージひとつは、測定する場所の問題です。医療機関で医師や看護師に測ってもらうと、普段よりもプレッシャーを感じてしまい、緊張することで、家庭で測るよりも血圧が高くなることがあります。この現象を「白衣性高血圧」といいます。
また、測定する時間帯も問題になります。朝起きてすぐに測ったのか、それとも夜寝る前に測ったのか、によって血圧が変わってきます。夜に比べて朝の血圧が特に高い場合は、「早朝高血圧」といい、注意が必要です。
このように、血圧を測定する状況は臨床的にも重要な意味を持ち、治療法の選択にも影響を与えます。

高血圧症の原因について

図3 本態性高血圧と二次性高血圧高血圧症は、明確な原因の有無によって「本態性高血圧」と「二次性高血圧」に分類されますが、高血圧症の大多数は、原因が明確ではない「本態性高血圧」です(図3)。また日本人は、本態性高血圧のなかでも特に「食塩感受性高血圧」の方が多いことが分かっています。これは、体の余分な食塩を腎臓から排泄する能力が障害されているため、食塩が体にたまり、体の血液量が増えて高血圧となる状態です。日本人は世界的にも食塩を多く取る国民なので注意が必要です。
一方、二次性高血圧には「原発性アルドステロン症」などの内分泌疾患や、「腎血管性高血圧」のような腎動脈に問題のある疾患があります。二次性高血圧は原因がはっきりしているため、手術などにより治癒が期待できる高血圧症です。

高血圧症の症状について

図4 高血圧はサイレントキラー高血圧症はいわゆる「silent killer(サイレントキラー)」とよばれる疾患であり、症状がはっきりしないのが特徴です。なかには「のぼせ」や「頭重感」を訴える方もいますが、症状がない方が多いのです。しかし、症状の有無と治療の必要性とは関連がありません。症状がなくても、治療が必要な方はとても多いのです。時々、血圧が非常に高いにも関わらず、症状がないからと医療機関にかからない方がいます。それは大きな間違いなので気をつけてください。

高血圧症の発症時期について

高血圧症の発症時期については、本態性高血圧は加齢に伴い患者数が増加します。一方、二次性高血圧では10代、20代の若年時から発症することもあり、たとえば血圧が突然高くなった場合などは、二次性高血圧を疑う必要があります。また、女性の場合は閉経後に血圧が高くなることがありますので注意して下さい。

高血圧症の合併症について

図5 高血圧の主な合併症さて、高血圧症がなぜ怖いかというと、命を脅かす重篤な疾患の原因と強く結びついているからです。高血圧症は、血管の動脈硬化や心筋肥大など、体の臓器に直接的に影響します。また、動脈硬化は、脳卒中、心疾患、腎機能障害の原因となります(図5)。
さらに、高血圧は「大動脈瘤破裂」にも強く関わっています。近年、体の中心を走行する大動脈が、高血圧などで拡張する病気である「大動脈瘤」が増えています。そして、高血圧をきちんと管理しないと、大動脈瘤が破裂し、ある日、突然死に至ることもあります。ぜひこのような事態にならないように、日頃から高血圧の怖さを充分に理解し、管理してください。

高血圧の治療について

日本高血圧学会では、高血圧症に対する治療ガイドラインを発表しており、標準的な治療法を提示しています。ガイドラインには、最初に使うべき降圧薬や、十分に血圧を下げられない場合に併用すべき降圧薬など、詳細な高血圧治療の指針が示されています。
治療目標は、年齢や糖尿病の合併の有無などにより変わりますが、合併症のない若年・中年の方では、診察室での血圧で130/85mmHg未満とすることを目指します。
また、薬物療法を始める目安ですが、以前は、重症の高血圧以外は、まずは生活指導を行い、それで十分な降圧が得られない場合に、降圧薬を飲んで頂くことが基本でした。しかし、最近の考えでは高血圧症の治療基準に入っていれば、早期より治療を開始することが推奨されています。
そのため、降圧薬が必要と判断されたときは、放置せずにきちんと治療を開始することが大事です。降圧薬は、長期的に服用することを前提として開発された安全な薬ですが、治療開始後に、生活の改善などで血圧が低くなれば、降圧薬を減量あるいは中止することも可能になります。

高血圧症の予防について

高血圧症の予防法としては、主に運動療法と食事療法があります。運動療法に関しては、適切な運動によって、収縮期血圧が4〜9mmHg低下するとされています。推奨されている方法は、「少し早歩きの30分間の歩行を週5日以上すること」です。運動強度としては、心拍数が1分間に110回を超えない程度のものと考えて下さい。
一方、食事療法としては一番大切なのは減塩です。「1日6g以下の食塩摂取」が推奨されています。最近になり、尿を用いた食塩摂取量推定式によって、尿検査をおこなうだけで食塩摂取量が分かるようになってきました。実際の食塩摂取量を知ると、減塩に対して前向きになられる方が多いようです。意欲のある方は、ぜひかかりつけの医師にご相談ください。

図6 高血圧のおすすめ予防法さて、具体的な食事療法として有名なのは、「DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食」と言われるものです。DASH食は、飽和脂肪酸とコレステロールが少なく、カルシウム、カリウム、マグネシムと食物繊維が多い食事で、野菜、果物、低脂肪乳製品を中心とした食生活で有意な降圧が得られることが確認されています。これは、食塩摂取量とは独立した降圧効果ですが、このように食事療法を複合的に組み合わせることで、大きな降圧効果をもたらします。

その他の予防法

ストレス管理・ストレス管理
ストレスは、さまざまな経路を介して高血圧の発症と関連します。人によっては仕事などでストレスが強いときだけ血圧が上がる人もいます。症例によっては、降圧治療としてリラクリゼーションを試みる価値があるとされています。

・入浴法
入浴に関しては、熱すぎない湯温が良いとされています。たとえば室温20℃以上、湯温40℃以下では血圧はほとんど上がらないとされています。実際には、38-42℃くらいの湯温で5-10分間の入浴が目安です。ただ、サウナについては、高血圧の方は避けたほうが良いでしょう。

・サプリメント
特定保健食品(特保)に降圧をうたったものがあり、それらはある程度の効果は期待できます。しかし明らかな高血圧の方が、サプリメントのみを使用し、降圧薬の服用を避けることは誤りです。サプリメントはあくまで補助的なものとして捉えて下さい。降圧薬服用中の方は主治医に相談することも必要です。

最近のトピックス

高血圧症の中には、複数の降圧薬を必要とする場合も多く、3剤以上の降圧薬を服用しても十分な降圧を得られない患者さんもいます。そのような薬剤抵抗性を持つ患者さんに対しては、最近「腎交感神経アブレーション」という治療法が注目されています。

これは、脳から腎臓を結ぶ「交感神経」に対して、腎動脈の部位でカテーテルを用いて焼灼する治療です。わが国でも試験的ですが、実施されるようになりました。適応疾患は降圧薬に対して反応が悪い治療抵抗性高血圧となりますが、降圧効果だけでなく、腎機能障害などの改善も見られることから、有望な治療法として期待されています。

最後に

高血圧症は、心血管疾患の原因となる、臨床的に非常に重要な頻度の高い疾患です。私どもの循環器内科においても、数年前に高血圧外来を開設し、患者さんそれぞれの高血圧の原因を意識した治療を行っています。現在は、高血圧に関して、より系統的な診療、研究、教育体制が求められています。当科におきましても、当院の内分泌代謝内科、腎臓内科と連携をしながら、その期待に応えていきたいと思います。

 

プロフィール

清水 渉WATARU SHIMIZU

日本医科大学大学院 医学研究科循環器内科学分野 大学院教授
日本医科大学付属病院 循環器内科・心臓血管集中治療科・内科系集中治療科 部長

【 経歴 】
1979年広島私立修道高等学校卒業。1985年3月広島大学医学部医学科卒業、4月同大学医学部付属病院内科研修医。1987年国立循環器病センター 心臓血管内科レジデント。1990年公立三次中央病院内科医員。1991年広島大学医学部第1内科。1992年国立循環器病センター心臓血管内科医員。1996年米国New York州Masonic Medical Research Laboratory (Charles Antzelevitch教授)留学。1998年国立循環器病センター 心臓血管内科医員。2003年同医長。2011年同部長。2013年日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野大学院教授。

専門分野:循環器内科学、不整脈学、心臓電気生理学、分子遺伝学
資格:1992年3月医学博士(広島大学第1内科 梶山梧朗教授 第2233号)、1988年10月日本内科学会認定内科医(第803号)、1990年12月日本内科学会認定総合内科専門医(1093号)、1993年4月日本循環器学会認定循環器専門医(10263号)、2008年9月日本内科学会認定医制度・研修医指導医、2014年4月日本不整脈学会・日本心電学会認定不整脈専門医(0511号)
公的役職、所属委員:1995年NASPE(北米ペーシング電気生理学会)Member、1999年日本ペーシング電気生理(現:不整脈学会)評議員、2000年American Heart Association(米国心臓学会)Member of Scientific Council on Basic Cardiovascular Sciences、2010年9月日本心電学会理事、2011年8月日本不整脈学会国際交流委員会・アジア担当専門委員会委員長、同年9月日本心臓病学会FJCC、同年10月日本不整脈学会学術集会プログラム委員会副委員長、2013年9月日本心臓病学会評議員、同年10月日本心臓病学会理事長補佐、同年12月欧州心臓病学会FESC、2014年4月日本内科学会評議員、同年6月日本循環器学会情報広報委員会委員、同年6月日本循環器学会国内交流委員会委員
受賞:1992年10月第8回木村栄一賞最優秀賞(第9回日本心電学会)、1997年5月第18回北米ペーシング電気生理学会(NASPE)若手研究奨励賞最優秀賞(基礎部門)、1998年3月第47回米国心臓病学会(ACC)若手研究奨励賞(基礎部門)、1999年4月第24回国際コンピューター心電学会(ISCE)Jos Willems若手研究奨励賞最優秀賞、2003年9月第3回日本心電学会医科学応用研究財団論文賞最優秀賞、2008年3月第33回日本心臓財団佐藤賞(第72回日本循環器学会学術集会)

 

こちらの記事は「意気健康 05夏号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。