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生活習慣病特集  脂質異常症

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.4 脂質異常症 日本医科大学付属病院総合診療科部長 安武 正弘

血液の中には4種類の脂質(コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸)がとけ込んでいて、われわれの生命維持に重要な働きをしています。しかし、コレステロール(LDLとHDL)と中性脂肪は、血液中の量が適正な範囲を逸脱すると動脈硬化の原因となり、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)や脳梗塞などの重篤な疾患につながってしまいます。そこで今回は、脂質異常症の病態や治療法、予防法など一般的に知っておくべき事柄について、日本医科大学付属病院総合診療科部長の安武正弘(やすたけ・まさひろ)先生に、お話を伺いました。

高脂血症から脂質異常症へ

脂質異常症は、以前は「高脂血症」とよばれていました。高脂血症とは、血液中のLDLコレステロール(LDL-C)と中性脂肪が「高い」状態を指しますが、近年HDLコレステロール(HDL-C)が「低い」ことも動脈硬化に関係があることが分かってきました。そのため、HDL-Cを含めた脂質の異常が問題であるということで、高脂血症から「脂質異常症」と名称が変わったのです。
脂質異常症の原因については、「家族性高コレステロール血症」では遺伝性が明らかになっています。しかし、家族性高コレステロール血症が脂質異常症に占める割合はとても小さく、脂質異常症の9割以上は、生活習慣の乱れに遺伝的素因が加わり発症します。
さて、コレステロールにはLDL-C(悪玉)と、HDL-C(善玉)がありますが、LDL-Cは増えすぎると、HDL-Cは少なすぎると問題が起きます。たとえば、血液中で増えたLDL-Cは、生活習慣の悪化により酸化し、血管壁に付着することで動脈硬化の原因となります。反対に、血液中のHDL-Cが少ないと、LDL-Cが増えてしまいます。なぜなら、HDL-Cは増えすぎたLDL-Cを血液中から肝臓へ移動させる働きを持つためです。また、中性脂肪は、それ自体は動脈硬化の原因にはなりませんが、中性脂肪の増加はLDL-Cが増える原因となります。そのため、間接的に動脈硬化の原因になるのです。

このように、LDL-C、HDL-C、中性脂肪の三つの脂質のバランスが崩れることで脂質異常症が発症します。

脂質異常症の症状

それでは、脂質異常症の症状にはどのようなものがあるでしょうか?「家族性高コレステロール血症」では血液中のLDL-Cが非常に高くなることで、コレステロールの皮膚沈着などの症状が見られることがあります。しかし、一般的な脂質異常症では動脈硬化が進むまでは症状は全くありません。そのため、病気の怖さが認識されず、発見や治療が遅れてしまうのです。

脂質異常症の統計

図1:血中コレステロール値が高いと言われた人の割合厚生労働省が実施した平成22年の国民健康栄養調査結果によると、医療機関などで「血中のコレステロール値が高い」と指摘されたことのある男性は32.6%、女性は34.1%にもなります。これは、10年前に比べると男性で14.3%増加し、女性でも10.2%増えています。この10年間でどれだけ脂質異常を指摘されている人が増えているかが分かります(図1)。また「血清の総コレステロール値」の平均値も、男性が203.0mg/dl、女性が210.9mg/dlと、10年前に比べると増加しており、これは現代の米国人と同じレベルになっています。

これらの原因として一番大きいのは、戦後の食生活の変化によって、日本人のコレステロール摂取量が増えていることが考えられます。たとえば日本人の全エネルギー摂取に占める脂質摂取の割合は、戦後すぐの1946年は7%だったのですが、2005年には25%まで増加しています。炭水化物摂取が減る一方で、脂質摂取が上がったのです1)

また、脂質異常症の発症年齢は一般的には30代から増え、年代が上がるに従い患者数も増えていきます。30代から増加するのは、健診が始まる年齢であることや、年を取るに連れて食事の質も栄養価の高いものなどに変わり、運動量も減るなどの理由が考えられます。しかし脂質摂取量の多い現代では、人によってはすでに20代から脂質異常症がはじまっている可能性もあります。

脂質異常症が怖い理由

脂質異常症が怖い理由は、気づかない間に動脈硬化に進んでしまうからです。動脈硬化の原因にはいくつかありますが、脂質異常症はそのうちの一つ、「アテローム硬化(粥状硬化)」という状態と深い関連があります。

図2:アテローム硬化症のイメージ図アテローム硬化は、悪玉コレステロールであるLDL-Cが変性した結果、血管の内皮細胞を傷つけて、内膜と中膜の間にマクロファージ(貪食細胞)などが入り込むことで起こります(図2)。内膜に侵入したマクロファージは、血液中のLDL-Cを次々と貪食し、アテローム巣を形成します。また、傷ついた内膜を修復するように血小板が集積することでアテローム巣はさらに大きくなっていきます。図のようにアテローム硬化が拡大し、被膜が破れて血栓を作りやすいアテローム内の成分が直接血液に触れると,急速に大量の血栓が形成され最終的には内腔が閉じて血管が閉塞してしまいます。これが脳の動脈や心臓の冠動脈におこると、脳梗塞や心筋梗塞を起こしてしまいます。
このように、症状がないことを理由に脂質異常症を放置してしまうと、ある日突然、心臓発作や脳卒中を起こしてしまう可能性があります。脂質異常症が「サイレント・キラー」と言われるゆえんです。

脂質異常症の診断

さて、脂質異常症そのものには自覚症状はありません。そのため、発見するためには医療機関や健診で血液検査を行う必要があります。検査では、空腹時のLDL-C値、HDL-C値、そして中性脂肪のトリグリセリド値を測定します(図3)。採血の直前に食事をしていると、食事内容が検査値に影響しますので、12時間以上は食事を取らない状態で検査をしてください。

図3:脂質異常症の診断基準(動脈硬化性疾患予防ガイドラインを参照)脂質異常症と診断されると、まず食事療法や運動療法を行います。しかし、症状がないだけに、患者さんもモチベーションが低くなってしまい、1次予防はなかなか難しいのが現状です。皆さんの身近にも、「コレステロール値が高い」と言われながらそのままにしている方も多いのではないでしょうか?一方、そのような方でも一旦心筋梗塞を起こすなどすると、積極的に脂質を改善しようという意志が働きます(2次予防)。このように2次予防も大事ですが、重篤な疾患にならないためには、1次予防を積極的に進めることが非常に大切です。

脂質異常症の治療

治療は、まず食事療法など生活習慣を改善することからはじめます。ただし、ここで気を付けたいのは、同じ脂質異常症でも、病型別に食事療法の内容が異なる点です。
たとえば、LDL-Cが高い場合は、コレステロール摂取を減らす必要があります。最初は1日のコレステロール摂取量を300mg以下にすることを目標にしますが、もし高LDL-C血症が持続する場合は、1日のコレステロール摂取量を200mg以下にします。卵系や肝臓、内蔵系の食品はコレステロール含有量が多いので、減らす必要があります。
一方、中性脂肪が高い場合は、総カロリーを減らし、特に炭水化物摂取を総エネルギー摂取の50%以下に抑えることを目標にします。また、アルコール類の摂取も控える必要が出てきます。
同時に、これら食事療法に加えて、1日30分以上の運動(徒歩、水泳、サイクリングなど)を毎日行うことを目標にします。しかし、食事療法や運動療法など、生活習慣を改善しても検査値が高い人もいます。その場合は、動脈硬化の進展を防ぐために、薬物療法を開始します。
高LDL-C血症に対する薬物療法としては、「スタチン」と呼ばれる、1970年代に日本人科学者の遠藤章氏が開発した薬が非常に有効です。スタチンは肝臓でのLDL-C合成を阻害する薬です。一方、スタチンは肝臓でのLDL-Cの合成を防ぎますが、コレステロールは肝臓で合成されるだけでなく、食事によって腸管からも吸収されます。そのため、スタチンに加えて腸管からのコレステロール吸収を抑える薬を併用することで、さらにLDL-Cのコントロールがうまくいくのです。現在、スタチンなどの薬によって、LDL-Cについてはコントロールが出来るようになってきました。一方、HDL-Cに対しては、血液中の濃度を上げる薬はまだ開発できていません。今後は低HDL-C血症に対する薬物療法の開発が課題になります。

動脈硬化予防のガイドライン

さて、脂質異常症の怖いところは、治療をせずに放っておくと動脈硬化につながる点です。しかし、動脈硬化は脂質異常症だけでなく、糖尿病や高血圧症など、他の生活習慣病とのバランスによって発症します。そのため、動脈硬化は脂質異常症だけでなく、他の生活習慣病とともに包括的に治療していく必要があり、そのために作成されたのが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」です。
2012年に改訂された動脈硬化ガイドラインの特徴は、脂質異常症と診断されてから、その患者さんが10年後に冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)を起こす可能性を絶対リスクで評価し、そのリスク別に患者さんをカテゴリー化(I〜III)して、治療目標を定めているところです。カテゴリー化は、患者さんの年齢、LDL-C値、血圧、喫煙などによって決められます。
たとえば、最もリスクの低い「カテゴリーI」に該当する患者さんの場合は、治療後の目標LDL-C値を160mg/dl以下とするのに対して、最もリスクの高い「カテゴリーIII」の患者さんでは、目標LDL-C値を120mg/dl以下に設定しています(図4)。

図4:脂質異常症の管理区分と管理目標値

このように、脂質異常症と診断された後の目標管理値を、高血圧や糖尿病などと関連させながら設定していき、動脈硬化を防ぐのがガイドラインの狙いなのです。

最後に

脂質異常症は症状がないため、診断や治療が遅れ動脈硬化へと進んでしまう可能性があります。ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞にならないためにも、定期的に検査を受けてほしいと思います。

(この記事は2013年4月取材時点の情報です)

 

プロフィール

安武正弘
安武 正弘Masahiro Yasutake

日本医科大学付属病院総合診療科部長

  • 1) Tada N, Maruyama C, Koba S, et al. Japanese dietary lifestyle and cardiovascular disease. J Atheroscler Thromb 2011;18:723-34.

 

こちらの記事は「意気健康 05夏号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。