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生活習慣病特集  糖尿病

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.5 糖尿病 日本医科大学千葉北総病院内分泌内科部長 江本 直也

わが国で糖尿病の可能性がある人は、2200万人以上1)。日本人の約5人に1人に糖尿病の疑いがあります。現代社会では誰もがかかる可能性がある病気、糖尿病。今回は、糖尿病をはじめとする内分泌疾患の専門家であり、糖尿病治療の地域医療連携を積極的に進められている、日本医科大学千葉北総病院内分泌内科部長の江本直也(えもと・なおや)先生に、お話を伺いました。

糖尿病とは?

「糖」は体を動かすために必要不可欠なエネルギー源ですが、血液のなかにある状態では利用できません。筋肉細胞や脂肪細胞に運ばれて、そこで処理されてはじめてエネルギー源として利用できるのです。そこで、糖をそれらの細胞に移動し、処理させる役目を担っているホルモンが、膵臓から分泌される「インスリン」です。血管を道路と考えると、そこを流れる糖が過不足ないように調整するのもインスリンの作用なのです。したがって、なんらかの理由によってインスリンが不足すると、血糖値があがってしまいます。さらに、エネルギーがうまく得られないだけでなく、高血糖によりさまざまな組織への悪影響がおきるのです。

糖尿病には大きく2種類ありますが、今回は、わが国の糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病についてご説明します(図1)。

図1:糖尿病の種類

糖尿病の症状

血糖値が上がると起きやすい症状一般的に糖尿病では、よほど血糖値が高くならない限り、症状は出ません。しかし、糖尿病が進行し、血糖値が高い状態が続くと、さまざまな症状が出てきます。たとえば、多尿、口渇(のどの渇き)、倦怠感、体重減少、感染症になりやすいなどの症状です。また、血糖値が300mg/dlを超える状態が続くと、昏睡や意識障害がおきることがあります。しかし、基本的には初期の糖尿病では症状が出にくいため、健康診断を受けていないと見つからないことが多いのです。

糖尿病の診断

図2:糖尿病の診断基準症状だけから糖尿病を診断することは困難です。そのため、健康診断などで「血糖値」を測ることが大切です。血糖値には、食後を含めた任意の時間帯で測定する「随時血糖値」と、早朝の空腹時に測定する「早朝空腹時血糖値」の二つがあります。そして、それぞれ一定の値を超えると糖尿病と診断されます。また、最近では血液中の糖化ヘモグロビン「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という値も用いられます。HbA1cが6.5%以上であれば糖尿病と診断されます(図2)。
HbA1cは、赤血球を構成する「ヘモグロビン」と呼ばれるタンパク質に「糖」が結合した状態です。HbA1cを測定する利点は、ワンポイントの血糖値と比べて、過去数カ月の血糖の状態が分かることです。赤血球の寿命は120日程度なので、HbA1cを調べることで、直近1〜4ヶ月の平均的な血糖の状態を把握できます。

糖尿病の合併症

図3:糖尿病の合併症さて、糖尿病が進むことで最も怖いのは「合併症」が起きることです。たとえば、影響をうける主な臓器として「目(網膜症)」「腎臓(腎症)」「神経(神経症)」があり、糖尿病の「3大合併症」とよばれます。網膜症は失明に至り、腎症は透析の原因として1位になっています。また神経障害では抹消神経や自律神経が侵されます。他にも、動脈硬化が進行して「大血管障害」がおきると、命に関わる心筋梗塞や脳梗塞に進む可能性があります(図3)。

合併症の多くは、糖尿病になってから5年ほどで発症するといわれています。したがって、健康診断などのチェックを5年以上受けていないと、気付かないうちに糖尿病を発症し、いつのまにか合併症を起こしてしまうため要注意です。

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糖尿病の治療

規則正しい食事糖尿病の治療において一番大事なのは、「規則正しい生活を送り、生活習慣を整える」ことです。その前提があって初めて食事療法、運動療法そして、インスリンや薬物療法が効果を発揮します。糖尿病に限らず、生活習慣病ではどんなに最新の薬を使っても、ずぼらな生活をしていては意味がないのです。特にインスリンは、「勝てる試合しかしない」ずるいホルモンです。インスリンは血糖値がそれほど高くない状態であれば血糖値を下げるために膵臓から十分分泌されるのですが、一番必要な血糖値が高い状態では、かえって膵臓から出てこなくなります。
この血糖値とインスリン分泌の関係に関して、近年新しいメカニズムがわかってきました。それは、「糖毒性」という概念で、糖そのものが毒性を持つため、糖尿病の患者さんは、インスリン分泌が十分できない、という考え方です。それをふまえて、最近試みられている治療法は、まず「糖毒性の状態を解除する」という方法です。すなわち、「血糖値が正常に近いほど良く分泌される」というインスリンの特性を生かし、まず入院していただき、一旦インスリンを外部から投与して、血糖値を徹底的に下げて糖毒性の環境をリセットします。その結果血糖値が十分に下がると、その後は外部からインスリンを投与しなくてもよくなります。膵臓からのインスリン分泌が回復し、適切な血糖コントロールが可能になるからです。

糖尿病のフットケア

図4:足病変の誘因(日本医科大学千葉北総病院 糖尿病冊子から改変)糖尿病では、動脈硬化や神経障害が進行することで足に病変をおこすことが珍しくありません。また糖尿病になると全身の抵抗力が落ちるため、普段では感染しない細菌やカビによって足が感染症を起こすことも多いのです。そのため糖尿病の患者さんは普段から足を守るために、こまめに足のケア(フットケア)をする必要があります。
足に病変がおこるきっかけは様々です(図4)。たとえば「やけど」ですが、糖尿病の患者さんは神経障害によって知覚に障害を起こすことが多く、そのため「使い捨てカイロ」や「湯たんぽ」などの低温でもやけどに気付かないため低温やけどを起こしてしまいます。40度程度のお風呂でも、長くつかることでやけどをすることもありますので、入浴前には湯温は必ず測るようにしましょう。また、ハイヒールなどにより足の一部分に重心がかかると、圧迫や摩擦により足病変を起こす事がありますし、サンダルや草履など、足の皮膚を直接露出する場合、ちょっとした傷口から感染が広がってしまうことがあります。靴を履くときは靴下をはき、出来ればハイヒール、サンダルなどは避けたほうがよいでしょう。
このように、糖尿病ではちょっとした誘因により足病変をおこしてしまい、場合によっては潰瘍や壊疽など、大変な状況になる可能性もあります。そのため、糖尿病の患者さんは毎日の足の観察と手入れが欠かせません。

低血糖時の対処法

外出時には砂糖やアメを携帯

糖尿病の患者さんでは、血糖を下げるために、インスリン注射や治療薬の服用そして、運動や食事療法を行います。一方で、治療効果が出てくるときや、治療のタイミングがあわないときなどは、低血糖といわれる状態になることがあります。低血糖は血糖値が50mg/dl以下の状態を指し、めまい、手足のしびれ、動悸、空腹感、などなど多くの症状をおこします。また、低血糖状態が進みすぎると、意識障害や痙攣、昏睡症状をおこし、危険な状態に陥いるため注意が必要です。
そのため、糖尿病の治療中には低血糖に日頃から気をつける必要があり、症状が出たらすぐに血糖値を測るようにしてください。低血糖の対処方法としては、血糖値が70mg/dl以下の場合には、直ちにブドウ糖や砂糖、アメ、ジュースなどの糖質を摂るようにし、症状が15分以内に治まらないときは、同じ対応を繰り返してください。低血糖はきちんと対処すれば速やかに改善します。しかし、稀に非常に危険な状況に陥る事もあるため、普段から低血糖にならないように、外出時には砂糖やアメを携帯するようにしてください。

糖尿病と地域医療:「糖尿病診療支援懇話会」

それでは当院における糖尿病治療の具体的なお話をしましょう。私は1999年に赴任しましたが、当時からこの地域は医師不足で、糖尿病治療を専門とする医療機関が周囲にありませんでした。そのため、すぐに当院の診療能力を超えるほど患者さんが集中してしまい、これでは問題があると考え2001年に「糖尿病診療支援懇話会」を立ち上げました。この会では、糖尿病を「地域全体で診ていく」という目標を掲げ、これまで医師会の先生方とともに、70以上の診療所や病院と連携し、地域における糖尿病診療を実施しています。
具体的には、糖尿病と診断された方は、まず当院で教育指導・合併症評価・治療導入、必要に応じてインスリン導入入院などを行い、原則として6ヵ月間の診療の後は、医師会の先生方の診療所に移っていただいています。また、コントロールの悪化などの状況では、当院での診療を行うシステムを確立しています。
「医療連携」の本質は、単に患者を紹介・逆紹介するのではなく、地域全体で治療方針のコンセンサスを形成し、各医療機関が役割分担を決めることだと考えています。地域内で「この病気はこのように治療しましょう」「この状態であれば当院で診ましょう」、といった合意形成があってはじめて医療連携が成立するのです。表面的な医療連携では機能しません。地域における治療方針の「同合意形成」と「役割分担」がとても大事です。その意味では、当地域では「糖尿病診療支援懇話会」を中心に糖尿病の地域診療システムが非常に良く機能しており、地域全体において一つの糖尿病診療チームをもっているのと同じなのです。

最後に

人類はもともと飢餓状態のなかで生き延びるために食料を確保してきました。そのため「食べられるときに、出来るだけたくさん食べる」という行為は原始より脳にインプットされた合理的な行為です。一方、現代社会ではあまりに容易に食事が手に入るにも関わらず、脳が対応できず糖尿病という病気が出現してしまいました。
本能を知識でコントロールすることは難しいですが、糖尿病にならないためには、欲望に打ち勝つ必要があります。生活習慣病では自己管理がとても大事なのです。

 

(この記事は2013年3月取材時点の情報です)

 

プロフィール

江本 直也
江本直也Emoto Naoya

日本医科大学千葉北総病院内分泌内科部長 

 

こちらの記事は「意気健康 05夏号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。