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生活習慣病特集  急性心筋梗塞

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.6 急性心筋梗塞 日本医科大学千葉北総病院循環器センター長 清野 精彦

日本人の死因の2番目を占める心臓病。なかでも虚血性心疾患で最も致命的な急性心筋梗塞は、発症時に救命されても慢性心不全の原因となってしまうことが少なくありません。虚血性心疾患は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を基盤に発症し、最近では高齢者ばかりでなく、若年層でも増えており注意が必要です。今回は直接生命に関わる病気「急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction: AMI)」について、日本医科大学千葉北総病院循環器センター長、循環器内科教授の清野精彦(せいの・よしひこ)先生にお話をうかがいました。

急性心筋梗塞とはどのような病気か?

図1:冠動脈の模式図、図2:正常な右冠動脈、閉塞している右冠動脈心臓の筋肉である「心筋」は、「冠動脈」とよばれる動脈によって養われています。冠動脈は大動脈起始部から分岐し、心臓の上を冠のように取り囲んでいることからそのように呼ばれます。冠動脈は心臓の下・後壁部分を養う「右冠動脈」と、前・側壁部分を養う「左冠動脈」に分かれていますが、左冠動脈はさらに心臓の前壁を養う「前下行枝」と、側壁を養う「回旋枝」の二つの動脈に分かれます(図1)。
冠動脈の役目は心筋に酸素を運ぶことです。一方、心筋は体の中でも酸素需要が非常に大きく、冠動脈が何かの原因で突然閉塞してしまうと、心筋に酸素が送れなくなり心筋が壊死してしまいます。この状態が急性心筋梗塞です(図2)。
冠動脈が詰まる原因は冠動脈の中で「血栓(血の塊)」が出来るため、と考えられています。冠動脈の中で血栓が出来その先の血流が途絶すると、心筋が壊死に陥ってしまいます。心筋が壊死すると、心臓のポンプ機能が低下し、肺のうっ血により呼吸困難をきたしたり、血圧が下がりショック状態になったり、最悪の場合は命を奪われてしまうのです。これが急性心筋梗塞の怖いところです。

急性心筋梗塞の発症メカニズム:「急性冠症候群」

1980年台までは、急性心筋梗塞というのは、冠動脈の中で動脈硬化が時間をかけてゆっくりと進行し、その結果、徐々に血管内腔が狭くなり最終的に血管が閉塞してしまうために起こると考えられていました。
しかし、1990年台になって分かってきたのですが、実際に急性心筋梗塞の発作を起こされた患者さんについて、発作を起こす半年から1年前に行われた冠動脈造影を集計分析すると、実はその時点で冠動脈が狭くなっていた方は15%程度しかいませんでした。つまり、急性心筋梗塞を発症したほとんどの患者さんは、冠動脈が狭くなっていなかったにも関わらず、その後短期間で発作を起こしているのです。
すなわち、心筋梗塞という病気は、従来考えられていたように動脈硬化が徐々に進んだ結果起きるのではなく、ある日突然に冠動脈が詰まってしまい起こるということが明らかにされたのです。
この考え方は、「急性冠症候群」(acute coronary syndrome)とよばれ、急性心筋梗塞の発症メカニズムとして認識が新たにされている概念です。

急性心筋梗塞の原因:「不安定プラークの破裂」

図3:不安定プラークのイメージ図、図4急性冠症候群さて、それでは具体的にはどのように心筋梗塞が起きるのでしょうか?現在分かっていることは、図3のように冠動脈の局所の壁に「不安定プラーク」と呼ばれる、コレステロールの蓄積を原因とする黄色い肥厚性病変(粥腫:プラーク)があり、それがさまざまな原因(ストレス、炎症、血圧変動など)で「破裂(rupture)」した結果、そこに血栓が形成されることで血管の閉塞がおきるということです。
不安定プラークは安定プラークと違い、プラークを覆っている被膜が非常に薄いため、中のプラークが透けて黄色く見えます。また、膜が薄いために、さまざまな刺激により簡単に破れてしまう(プラーク破裂)のです。たとえば日常生活の中で、血圧が高くなったり、タバコを吸ったり、地震・大災害ストレス、精神的ストレスにさらされたり、といった刺激によって突然破裂してしまいます。そして、そこに血栓が形成され血流が途絶してしまうのです。これが、近年解明されてきた、「急性冠症候群」という考え方による急性心筋梗塞の発症メカニズムなのです(図4)。

冠動脈の検査方法:「隠れ不安定プラークを見つけ出す」

このように、従来考えられていた「徐々に動脈硬化が進む結果、急性心筋梗塞が起きる」のではなく「不安定プラークが破裂することで急性心筋梗塞が発症する」ということが分かった現在では、冠動脈の血管壁がどのように変化しているかを知ることが、発症を予防するためにも非常に大切になってきました。同時に、隠れ不安定プラークがないかどうかを解明することも、とても大事です。

図5:冠動脈CTそのため、わたくし達循環器内科では、従来から行われている冠動脈の血管造影のみならず、血管の壁自体の変化を見ることで、診断や治療に役立てています。たとえば冠動脈CT画像、血管内超音波や、冠動脈血管内視鏡、光干渉断層法といった方法を用いて、診断を行っています(図5)。また同時に、冠動脈内のどのようなプラークが危険であるのか?新しい血液バイオマーカーを臨床開発することにより隠れた不安定プラークを検出出来ないか?などの研究に取り組んでいます。

症状について

急性心筋梗塞の発作では、心筋が虚血状態になることで生じる「前胸部の持続する痛み」が見られます。狭心症(冠動脈の狭窄により酸素供給が不足して発症)では虚血状態が解除されると痛みが治まりますが、急性心筋梗塞では冠動脈の閉塞によって心筋壊死に進展しますので、激しい胸痛と心臓のポンプ機能低下による重篤な症状に進展します。
発症時の症状としては胸痛の他には、胸部から頸部や左肩にかけて痛みが広がる放散痛や冷汗、心窩部痛などがあげられ、心臓のポンプ機能が障害されると、呼吸困難や血圧低下などの急性心不全症状(肺うっ血、心原性ショック)が起こります。しかし、糖尿病のかたや高齢者ではこのような自覚症状に乏しい場合があるので注意が必要です。
いずれにしても、このような症状が見られたら、すぐに医療機関に受診してください。生命を脅かす重篤な状況なのです。

検査について

急性心筋梗塞の診断においてもっとも多く利用される検査は「心電図」です。心電図は正常であれば図6の上段のような波形を取りますが、急性心筋梗塞では、波形が図6の下段のように変化します。特徴的な波形として、「ST上昇」、その後の「異常Q波」などがあります。また、心電図の他には、超音波検査や血液検査なども重要です。

図6:急性心筋梗塞における心電図変化

新しい診断方法:「心筋バイオマーカー」

図7:急性心筋梗塞の全血迅速診断テスト上記のように、急性心筋梗塞の診断は、主に症状と心電図から始まります。しかし、患者さんによっては、急性心筋梗塞に特徴的な症状や心電図変化が常に見つかるとは限りません。そのため、循環器の専門医でなくてもその場で急性心筋梗塞の診断が出来るような、より簡便・迅速な血液生化学診断法が望まれていました。
そこで、2000年台に私たちが国内・国外企業と共同で開発したのが「特異的な心筋バイオマーカー」を用いた二種類の急性心筋梗塞の全血迅速診断テストです1)2)3)4)。現在では、「トロップTおよびカーディアックT」と「ラピチェック」という商品名で広く救急の場で使用されています(図7)。
「トロップT、カーディアックT」と「ラピチェック」は、それぞれ心筋が壊死したときに放出される筋原線維タンパク質である「トロポニンT」と、心筋細胞質に存在する「H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白)」を測定する全血迅速診断テストです。このテストの利点は、患者さんの血液を一滴そのままキットに滴下するだけでよく、また15分で結果が出るため救急外来はもちろん、救急車に乗っている間に急性心筋梗塞の診断が出来るようになります。急性心筋梗塞では、発症から治療までの時間が勝負の分かれ目になります。そのため、来院前に診断がついていれば、その後の流れもスムーズにいき、早期治療が可能になります。また、最近では、本キットによる、急性心筋梗塞以外の循環器疾患(重症心不全や高血圧性心疾患における微小心筋傷害の検出)における有用性も明らかにされてきました。
一方、理想的なのは、急性心筋梗塞が「起きた後」に診断するのではなく、「起きる前」の状態で診断し、治療をすることです。そのためには、冠動脈の中の「隠れ不安定プラーク」の発見が望まれます。この数年、私たちは文科省の科学研究費に採択され、新しい血液バイオマーカーの臨床開発と「隠れ不安定プラーク」の診断法について臨床研究をすすめています。

治療法について:「Door to Needle, Door to Balloon」
急性心筋梗塞の治療については、循環器学会を中心にガイドラインが作成されています。
まず、基本として、発作を起こしたら出来るだけ早く病院に搬送することが大事です。急性心筋梗塞では、発作が起きてから4-6時間以内に治療が出来れば、心筋の壊死は起こりますが、その後更に悪化することを防止出来ることが示されています。

 

図8:ガイドラインによる治療目標設定そこで、日本循環器学会ガイドラインでは「Door to Needle:病院に来てから血栓溶解療法開始までの時間」を30分以内、また「Door to Balloon: 病院に来てから初回バルーン拡張までの時間」を90分以内に設定し、如何にこの時間内に治療を始められるかに重点を置いています(図8)。

ちなみに当院ですと、最近まとめたHsTnT-iNET研究では発作を起こしてから中央値165分で当院に搬送され、60分以内にカテーテル治療をしていますので、発症から4時間以内には治療を行うことが出来ています。
また当院の場合は、「ドクターヘリ」を運用している効果も大きいのです。早い方であれば、発症から2ー3時間以内に治療が出来ています。ドクターヘリのおかげで、発作を起こして30分以内に搬送される患者さんも少なくありません。このように、当院の特色として、発作を起こしてから院内に収容するまでの時間が非常に早いこと、早期治療が効率的に実施されていることが挙げられます。
治療の具体的な内容としては、カテーテル治療による閉塞部のバルーン拡張と「ステント」留置術が行われています。また、近年カテーテルやステントの開発が著しく、従来であれば外科的な開胸手術による冠動脈バイパス術(CABG)が必要だった症例でも、「ステント」を用いたカテーテル治療が行われるようになっています。
ただし、透析中の方や進行した糖尿病の方など、カテーテル治療よりもバイパス術が良い場合もあり、患者さん一人ひとりに対応して治療を決めることが大事です。
当院は千葉県の基幹病院となっており、非常に多くの症例に治療を行っております。さらに当院では、いろいろな疾病に特化した効率的な入院パス診療を整備しております。狭心症の場合には、冠動脈カテーテル検査もしくはカテーテル治療では2泊3日で退院出来ます。

急性心筋梗塞の一次・二次予防

図9:急性心筋梗塞の予防急性心筋梗塞の予防として大事なことが3つあります。一つ目は、不安定プラークを作らないこと。二つ目は不安定プラークの安定化(薄い被膜が破れないようにすること)、そして三つ目は、血栓が出来ないようにすることです(図9)。
そのため、それぞれに対応した予防法が必要となります。まず血圧管理、禁煙指導、メタボ対策があげられます。不安定プラークを作らないためには日頃からコレステロール値を正常範囲内に保つ必要(食事療法、各種スタチン製剤など)があります。また、薄い被膜が破れないようにするためには血圧をコントロールし、プラークを安定化する薬(ACE阻害薬、β遮断薬、ARB,Ca拮抗薬など)が必要です。そして血栓が出来ないようにするためには、アスピリンなどの「抗血小板薬」を服用します。
さらに、不安定プラークが破裂するきっかけとなる「引き金」を予防することも大事です。たとえば睡眠中に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」の患者さんはプラークの破裂リスクが高くなることが分かってきました。このような病気にならないためにも、日頃の体調管理や生活習慣の改善が大事です。

最後に

急性心筋梗塞について大事なことは、なんといっても予防です。初回発作を起こす前の「一次予防」、また発作を起こした後の再発を防ぐための「二次予防」。日頃からこれらに取り組む姿勢がとても重要です。特に、急性心筋梗塞の発症率は下降傾向にあったのですが、ここ数年若年層や女性で増加傾向を示しています。理由として、生活習慣病が若年層に増えてきたことが挙げられます。
生活習慣で特に大事なのは、食生活です。ハンバーガーなどのファストフードはコレステロールと摂取カロリーが高く要注意です。子供たちのことを考えると、家族全体で食生活を改善する必要があります。
また、循環器科に限らず、これからの医療は、医師、看護師、薬剤師、など多職種で協力して診療を進めることが必須です。このようなチーム医療を推進するため、わたくし達は「T/Each other(ティー・イーチアザー)」というキーワードを掲げて、多職種が互いに教え学びあう診療体制を心がけています。そして「T/Each other」の基本は、わたくし達医療従事者と患者さん・家族が互いに教え学びあうところにあるのです。

関連文献

  • 1) Seino Y et al: Early identification of cardiac events with serum troponin T in patients with unstable angina. Lancet 342:1236-1237:1993
  • 2) Seino Y, et al: Pathophysiological analysis of troponin T release kinetics in evolving ischemic myocardial injury. Jpn Circ J 60:265-276:1996
  • 3) Seino Y, et al. Use of whole blood rapid panel test for heart-type fatty acid-binding protein in patients with acute chest pain: comparison with rapid troponin T and myoglobin tests. Am J Med 2003; 115:185-190
  • 4) 清野精彦 急性冠症候群の血液生化学診断 日本医師会雑誌 2013; 141: 2639-2643

(この記事は2013年7月取材時点の情報です)

プロフィール

清野 精彦
清野 精彦Seino Yoshihiko

日本医科大学千葉北総病院循環器センター長

 

こちらの記事は「意気健康 06秋号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。