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生活習慣病特集  脳卒中

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.7 脳卒中 日本医科大学付属病院神経内科部長 片山 泰朗

年間13万人が亡くなり、日本人の死因で4番目に多い病気、脳卒中。近年は医療の進歩や生活習慣の改善によって亡くなる方は減少してきましたが、寒い冬をはじめ、まだまだ多くの方が年間を通して発症し、半身麻痺など後遺症を残すことがあります。今回は日本人にとって身近な病気、脳卒中について、日頃から多くの患者さんの診療にあたっている日本医科大学付属病院神経内科部長の片山泰朗(かたやま・やすお)先生にお話を伺いました。

脳卒中とはどのような病気か?

脳卒中とは、脳の血管が障害される事で、脳組織の損傷が起こり、脳機能障害を生じる病気、「脳血管疾患」の総称です。脳卒中は、大きく3つに分類されます。脳血管が詰まってしまう「脳梗塞」、細い脳の血管が破れてしまう「脳出血」、そして主に動脈の分岐部にできる動脈瘤が破裂しておこる「クモ膜下出血」があります(図1)。

図1:脳卒中の分類

「脳梗塞」は、脳の動脈が動脈硬化などで血管が詰まってしまい、その先の細胞に充分な血液が送られず、酸素やブドウ糖不足となり死んでしまうことで生じます。また、「脳梗塞」は、さらに三つのタイプに分類されます。一つ目は、「ラクナ梗塞」といって、比較的小さい血管が詰まるタイプ。ラクナとは「小さいくぼみ」という意味があります。また、太い主要な血管が詰まるタイプは「アテローム血栓性脳梗塞」と呼ばれ、動脈硬化が原因となります。さらに、心臓に心房細動や弁膜症があることで心腔内に「血栓」と呼ばれる血の塊が生じ、それが脳血管まで飛ぶ事で詰まってしまう「心原性脳梗塞」があります(図2)。

図2:脳卒中の大まかな病型分類

タイプ別に分ける理由は、脳梗塞を起こす原因によって、治療法が変わってくるからです。ラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞では抗血小板薬の投与が、また心原性脳梗塞ではヘパリンやワーファリンといった抗凝固薬の投与が行われます。このように、脳梗塞では原因を特定する事が、その後の治療法を選択する上でもとても大切なのです。
一方、脳出血やクモ膜下出血は、高血圧や動脈瘤を主因として、脳の血管が破裂することで生じる脳血管疾患です。
それぞれ発症の原因は異なりますが、共通するのは、結果として脳細胞に傷害を与え、脳に障害が起きてしまうことです。

脳卒中の原因・危険因子

一般的に脳卒中では高血圧が最大の危険因子になります。たとえば、1961年からわが国で実施されている非常に有名な臨床研究に「久山町スタディ」があります。九州大学で行われたこの研究では、血圧値別の脳卒中の発症率を久山町の住民を追って調べています。99%の追跡率を誇るこの研究結果によると、脳出血も脳梗塞も、いずれも血圧が高い人ほど、発症リスクが高まることが示されました(図3)1)

図3:久山町スタディ

また、他の多くの臨床研究でも同様の結果が出ており、一般的に、高血圧を治療すると、脳卒中の発症リスクは40%低下する、と考えられています(図4)2)。そのため、脳卒中の予防には、高血圧をしっかりと治療する必要があるのです。

図4:脳卒中発症率

図5:脳卒中の危険因子や疾病また、糖尿病や脂質異常症と脳卒中の関係についても色々と分かっています。たとえば、糖尿病の方は脳卒中の発症リスクが2倍から4倍増加するといわれています。また、脂質異常症は特に脳梗塞との関係が深く、総コレステロール値が高いほど発症リスクが高まります。一方、悪玉コレステロールとして知られているLDLコレステロールを下げると、脳梗塞の発症リスクも下がる事も分かっています。その他にも、心房細動、喫煙なども危険因子としてあげられます。
また、近年は睡眠時無呼吸症候群(SAS)や慢性腎臓病(CKD)の患者さんも、脳卒中を発症するリスクが高いことが分かってきました。したがって、これらの危険因子や疾病をしっかりと管理することがとても大切になります(図5)。

脳卒中の統計

脳卒中は、戦後から1980年代までは、わが国の疾患別死因の1位でした。しかし、その後徐々に減少し、現在はがん、心疾患、肺炎についで第4位になっています。
一方、一言で脳卒中と言っても、その内訳は近年大きく変化してきました。たとえば、1960年と2004年の脳卒中の死亡内訳を比較してみると、1960年に最も多かったのは脳内出血で約80%にのぼります。一方、脳梗塞は約13%でした。しかし、2004年になると、脳内出血は約25%に減少し、約60%の方が脳梗塞で亡くなるようになったのです(図6)。このように、脳卒中は、過去と現在でその内訳が大きく変わっています。

図6:脳卒中死亡の内訳

過去、脳内出血が多かった理由として、戦後は食事の多くが低タンパク質であり、食塩摂取量が多かったことが考えられます。その結果、高血圧も多くなり、適切な治療を受けられない患者さんも大勢いました。一方、現在では食生活も変わり、高血圧も多くの方が治療されるようになりました。その結果、脳出血が減少したと考えられます。
それでも未だに12万人以上の方が脳卒中で亡くなっています。また、介護保険上、「要介護」と認定された方400万人のうち、24%の方が脳卒中の後遺症が原因です。そのため、脳卒中を予防する事は、医療費など社会医学上も非常に重要なのです。

脳卒中の症状

図7:脳梗塞でよくみられる症状脳卒中では、脳の神経細胞が障害されるため、障害された部分が司っていた身体機能が損なわれ、さまざまな神経徴候が現れます。たとえば、脳梗塞によって脳の前頭葉と呼ばれる部分を養う血管が詰まると、急に手足に力が入らなくなるなどの半身麻痺(片麻痺)の症状が出現します。このように、脳卒中では脳のどの部位が障害されるかによって、それぞれ異なった症状が出るのが特徴です。これを「巣症状」と呼びます。逆にいうと、出てきた症状から脳のどの部位に障害が起きたのかも推測出来るのです。
脳梗塞でよく見られる症状としては、片麻痺の他に、しびれなどの感覚障害、ろれつが回らない等の言語障害があります。また、眼症状がでることもあり、その場合は、物が二重に見える、焦点が合わない、片目だけカーテンがかかったように見えづらくなるなどの症状がみられます。他にも小脳が障害されると回転性のめまいが生じて立位が困難になることもあります(図7)。
一方、クモ膜下出血では、よく「人生で最もひどい頭痛」「雷に打たれたような痛み」などといわれる非常に激しい頭痛が突然生じるのが特徴です。そして、その後急速に症状が進行し、意識障害まで進むことも多いのです。クモ膜下出血は、死亡率が30%から50%にのぼり、放っておくと大変危険な状態になりますので、もしこのような症状が出た場合は、迷わず救急車を呼び、病院に向かう必要があります。
他にも、脳出血によって「脳幹」と呼ばれる部位に障害がおきると、脳幹の網様体や呼吸中枢が障害されることで、意識障害や呼吸麻痺が生じ、急速に昏睡状態など死亡につながる状況に陥ってしまうこともあります。

検査と診断について

図8:脳梗塞のCT写真脳卒中の疑いがある方が受診されると、まず担当医は問診を行います。問診では、いつから症状があるのか?どのような症状なのか?ということを中心にお聞きします。その後、一般的な血圧測定や心音聴取などの診察と同時に、神経学的検査を実施します。患者さんの手足の動きや、言葉の話し方、麻痺のチェックなどを詳細に行い、その上で画像診断へと進みます。

画像診断では、従来一般的に実施されているのは、頭部のX線CT撮影です。CTを用いることで、脳卒中の有無だけでなく、脳梗塞と脳出血の鑑別や、脳が膨張して浮腫を起こしていないかどうか、脳が圧排されていないかどうか、など多くの情報を得ることが出来ます(図8)。

図9:アテローム血栓性脳梗塞のMRIとMRA一方、現在では、CTの他にもさまざまな検査があり、特にMRIといわれる核磁気共鳴現象を利用した検査は脳梗塞の早期診断に非常に有用です。CTでは、脳梗塞が起きてから5時間経過しないと画像上で見つけることが出来ないのですが、MRIでは、非常に早期に脳梗塞を見つけることが出来るのです。特にDWI(Diffusion Weighted Image)といわれるMRIの「拡散強調画像」では、CTでは捉えることの出来ない「超急性期」の脳梗塞を発見することが出来ます。そのため、現在ではMRIは脳梗塞の早期発見には欠かせない検査になっています。また、MRI同様、MRAという検査では、脳の血管を映し出すことができます。MRA検査によって、どの位置のどの血管が詰まったかということまで分かるようになるのです(図9)。

他にも、最近では超音波(エコー)を用いて頸動脈を検査することで、動脈硬化の進行程度の評価も実施されています。

治療法について

図10:脳梗塞の治療法:t-PAによる血栓溶解脳梗塞の治療法としては、発症から時間が経っていない場合は、詰まった血管を再開通させる目的で、t-PAという薬を用いて血栓溶解療法を行います。一般的に脳細胞は、酸素がない状態では4、5時間で不可逆的な変性を起こして死滅します。しかし、発症から短時間であれば、閉塞した血管を再開通することで、脳細胞は再び生き返るのです。

t-PAはこれまで発症から3時間以内の患者さんにしか使用出来なかったのですが、臨床研究の結果、発症から4時間半であっても効果があることが分かりました。そのため、現在では脳梗塞を発症してから4時間半以内の場合には、t-PAを用いた治療法を行っています。このように、治療上の観点からも、脳梗塞を起こした場合は、できるだけ早く医療機関に受診することが大切なのです(図10)。

図11:脳梗塞の治療法:Penumbraによる血管内の血栓回収また、治療法における最近の進歩としては、t-PAで溶けない血栓に対しては、カテーテルを用いた血管内療法を行い、血管内で血栓を破壊して除去する方法などが開発されています。その一つが「Penumbra」という血管内治療デバイスです。Penumbraによる治療では、セパレーターというワイヤを用いて血栓を破砕して、カテーテル内に破砕した血栓を吸引して回収します(図11)。このように、近年では、脳梗塞の治療の選択肢が増えつつあります。

一方、脳出血において、出血の結果形成された「血腫」が原因で脳ヘルニア等が起きて意識障害が進行する場合は、脳神経外科で血腫除去術を行う必要があります。また、重症度によって異なりますが、クモ膜下出血の治療も脳出血同様に多くは外科的手術を行うことになります。治療としては、開頭せずにコイルを用いて血管内から動脈瘤の中を詰める方法(コイル塞栓術)があります。また、コイル塞栓術が適応できない場合は、開頭し、破裂した動脈瘤をチタン製のクリップで留める手術(開頭動脈瘤クリッピング)が用いられます。このように、脳卒中の治療では、内科のみならず外科的治療が必要な場面も多くありますので、症例ごとに相談をしながら治療法を選択していくことになります。

当院では、神経内科脳卒中グループと救命救急センターが脳卒中患者さんの初期対応を行い、脳梗塞は主に神経内科が担当し、脳出血やクモ膜下出血は脳外科や救命救急センターが担当します。また、当院では、脳梗塞の治療は脳卒中を専門とするSCU(Stroke Care Unit)で行っており、治療成績の向上を図っております。

合併症

脳卒中では、麻痺等によって寝たきりになってしまった時に生じる合併症が多く見られます。たとえば、寝たきりになると自立的な体動が出来なくなり、その結果、褥瘡(じょくそう、床ずれ)が起きやすくなります。また、下肢に静脈瘤が出来やすくなるため、そこで生じた血栓によって肺塞栓症などが起きることもあります。また、嚥下障害がある場合は誤嚥性肺炎を起こすことがあります。そのため、予防がとても大事になります。脳卒中で一命を取り留めても、その後誤嚥性肺炎になり、亡くなる方も多いのです。

リハビリテーションについて

図12:リハビリテーションの分類脳卒中では、t-PAなどの治療法が効果をあげることもありますが、一方で片麻痺や言語障害等、日常生活に支障を来す後遺症が残ってしまう患者さんが多くいます。そのため、脳梗塞を発症した後に、そのような後遺症が想定される場合には、「早期」からリハビリテーションを行うことが大変重要になってきます。現在は、リハビリテーションを専門とする医師がいます。リハビリ医は病棟を訪れ、一人ひとりの患者さんに対して必要なリハビリを選択していくのです。

リハビリは3段階に分けられ、発症から2週間までの間に行う「急性期リハビリ」、その後3カ月までの間に行う「回復期リハビリ」、そして3カ月目以降に行う「維持期リハビリ」があります(図12)。

一般的には、発症から3カ月目までが最もリハビリの効果が見られる期間といわれています。そのため、リハビリの開始は早ければ早いほどよく、病状に影響がないことが確認出来たら、早期から行うようにします。最初はベッド上、その後、座位、起立位、車いすなど、病状に合わせて行います。また、言語障害の場合は言語療法士によるspeech therapy(スピーチセラピー)を行うなど、その方の状態に合わせたリハビリを各専門家が担当します。

現在では医療機関の機能分化も進み、当院のような急性期病院での治療の後は、リハビリを専門とするリハビリ病院、そしてその後は、老人保健施設などを経て自宅や特別養護老人ホームなどへ治療を行う場所を移動していきます。ただし、大事なことは、どの段階であってもリハビリを中断しないことです。リハビリを中断してしまうと、せっかく回復した機能が低下してしまいます。週に数回でも良いので続けることが大事です。続けることでADL(日常生活動作)が保たれるのです。

最新のトピックについて

現在、脳梗塞治療の新たな可能性として「骨髄幹細胞移植」が注目されています。骨髄中にある幹細胞は、これまでは主に血液系の細胞に分化すると考えられていましたが、近年、神経を構成する神経細胞やグリア細胞にも分化することが分かってきました。骨髄幹細胞を脳梗塞の患者さんに投与することで、神経細胞のダメージを最低限に抑え、場合によっては死滅した神経細胞が再生し、麻痺した手足が動くようになることもあるのです(図13)。

図13:骨髄移植による脳梗塞治療(再生医療)

我々の教室で実施した脳梗塞のモデル動物を用いた実験でも、骨髄幹細胞を投与したラットでは、脳梗塞を発症後24時間後に、梗塞体積が減少し、また1週間後に神経徴候の改善がみられています3)

現在、脳梗塞の治療として骨髄幹細胞移植を臨床試験で行っている施設は日本では国立循環器病センターと札幌医科大学の2施設ですが、当院でも厚労省の許可取得を目指して現在整備を進めている状況です。本治療は自己の細胞を用いるため拒絶反応もなく、将来的にとても有望な治療法として期待されています。

脳梗塞の後遺症は非常につらく、「自分以外の誰か」に依存しないと生活できない状況は、患者さんには精神的にも大きな負担です。小さいことでも自分で出来るようになると、患者さんはとても希望が持てます。このような後遺症を防ぐ治療法が確立されれば、後遺症を持っている方に大きな朗報となるでしょう。

また、「EPA」といわれる魚の油を1週間ラットに服用させておくと、脳梗塞を発症させても梗塞体積がコントロール群に比べて小さくて済むことが分かりました4)。EPAは脳梗塞予防に有効であると考えられ、現在さらなる実験を進めています。魚中心の食生活を送るデンマークのイヌイット(エスキモー)では、心筋梗塞が同国の白人種に比べて極端に少ない、という事実より始まった研究です。

最後に

脳卒中は「早期診断、早期治療」がとても大事です。最近は治療法の選択肢も増えてきましたので、患者さんにはぜひ発症から3時間以内には医療機関を受診してほしいと思います。また特に強調したいのは、「予防に勝る治療法はない」ということです。三大危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症をコントロールして、脳卒中を予防してほしいと思います。

関連文献

  • 1) Arima H, et al.  Validity of the JNC VI recommendations for the management of hypertension in a general population of Japanese elderly: the Hisayama study. Arch Intern Med. 163(3): 361-366, 2003
  • 2) Collins R, et al. Blood pressure, stroke, and coronary heart disease II: short-term reductions in blood pressure. Overview of randomized drug trials in their epidemiological context. Lancet 335:827-838, 1990
  • 3) Suda S, et al. Combination therapy with bone marrow stromal cells and FK506 enhanced amelioration of ischemic brain damage in rat. Life Science 89: 50-56, 2011
  • 4) Ueda M, et al. Therapeutic impact of eicosapentaenoic acid on ischemic brain damage following transient focal cerebral ischemia in rats. Brain Res. 1519: 95-104, 2013

(この記事は2013年7月取材時点の情報です)

 

プロフィール

片山泰朗
片山泰朗Itsuo Fujita

日本医科大学付属病院神経内科部長




 

 

こちらの記事は「意気健康 06秋号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。