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生活習慣病特集  COPD

Webマガジン 『生活習慣病特集』part.8 COPD 日本医科大学呼吸ケアクリニック所長 木田 厚瑞

慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?最近はテレビCMなどでも積極的に普及活動を行っていますが、認知度はまだ低く、厚生労働省の調査でも25%程度です。一方、COPDの患者さんは全国で620万人といわれており、世界的にも死亡原因として今後ますます増えることが予想されています。今回は「タバコ病」とも言われるCOPDについて、わが国の第一人者である日本医科大学呼吸ケアクリニック所長の木田厚瑞(きだ・こうずい)先生にお話を伺いました。

COPDとはどのような病気か?

図1:肺胞の構造肺という組織は、無数の「肺胞」と呼ばれる組織がぶどうの房のように連なった構造をしています(図1)。肺胞の主な機能は、酸素と二酸化炭素を交換する場所となることです。空気中の酸素は肺胞を通して毛細血管に入り、全身に運ばれます。一方で、血液中の二酸化炭素は肺胞を通して呼気として外に出ていきます。そのため、何かしらの原因で肺胞の機能が損なわれると、このガス交換が障害されてしまいます。

COPDという病気は、主にタバコや大気汚染の微粒子が原因となり、気道や肺胞に慢性的な炎症が生じることでガス交換が障害され、その結果、呼吸障害や気流制限がおきてしまう病気の総称になります(図2)。タバコがもっとも大きな原因であるため、生活習慣病として扱われます。また、今年度よりスタートした国の健康政策である「健康日本21(2次)」においても、わが国で対策が急務な重要な疾患として取りあげられています。

図2 COPDの気道と肺胞

図3:WHOにより名称をCOPDに統一COPDは、以前は「慢性気管支炎」や「肺気腫」などと個別の病名で呼ばれていました。しかし、病気が起きる部位や病理像に違いがあっても、結果としていずれも気道や肺胞に慢性的な炎症が生じることで、気流制限が生じ、呼吸困難に陥ることに変わりはないため、現在ではこれらを総称してCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼んでいます。世界的には、2001年にWHO(世界保健機関)によって、名称をCOPDに統一することが決まりました(図3)。

さて、「気流制限」とは炎症などにより気道や肺胞が狭くなり、肺の空気の流れ、特に空気を「吐き出す」ことが非常に難しくなる状態を指します。空気を吐き出すことが困難になると、いわゆる慢性的な「息切れ」が症状として現れます。
COPDの患者さんが日頃から息切れ、痰、咳、などに悩まされる原因は、このように気道や肺胞に慢性的な炎症が生じることで、気流制限が起こるからなのです。
ちなみに、わが国ではCOPDの患者さんは近年増加しています。2001年時点で530万といわれていた患者数が現在では620万人に増え、40歳以上の国民の8.6%がCOPDであるといわれています。その一方で、多くの方は治療をしておらず、「COPDの無治療患者」の増大が、現在大きな問題となっています。

COPDの発症原因と年齢

COPDの原因は、9割が喫煙ですが、一部はタバコを吸ったことがない方です。COPDは喫煙を始めてから、約20年で発症します。つまり、20歳から吸い始めた方は、40歳前後で症状が出てくることになります。タバコを吸ったことがない方のCOPDは受動喫煙や職業上での粉塵曝露が原因と考えられますが、詳しいことは分かっていません。

COPDの症状

COPDの症状として代表的なものには、「咳、痰、息切れ」の三つがあり、これらの症状が慢性的に持続するのが特徴です。
最初に現れる症状は「咳と痰」です。ほとんどの方は、当初「風邪が治らない」と訴えて受診されます。一般的にCOPDが進行するに従い、最初は季節の変わり目だけに風邪を引くことが多かった方が、風邪がなかなか治らず、冬の間ずっと風邪を引いている、などと症状が持続することが多くなるのです。
そして、その後に「息切れ」が加わってきます。COPDの場合、いきなり苦しくなるわけではありません。たとえば駅の階段を上るときに少し苦しく感じるようになったり、同年代の友人とハイキングに行ったら自分だけが遅れてしまったりなど、さまざまなきっかけで認識するようになります。多くの場合、息切れは体に負荷がかかる労作時に生じます。安静にしていると症状はあまり出ません。

COPDの急性増悪

COPDの怖いところは、風邪などの気道感染症をきっかけにして、それまで落ち着いていた症状が急速に悪化する「急性増悪」を起こすことです。急性増悪を起こすと、呼吸が出来なくなり非常に苦しくなるため、緊急入院をして酸素吸入が必要になります。
入院期間は2,3週間にも及び、その間に酸素吸入なしでは動けなくなる方もいます。何度も入院を繰り返すと金銭的な負担も大きくなりますし、仕事などの社会的活動も出来なくなります。COPDを早期に診断し、適切な治療をできるだけ早く始める理由がここにあります。
WHOによるCOPDの世界的な共同プロジェクトであるGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、急性増悪とは「COPDの患者において、疾患の自然経過の中で呼吸困難、咳、痰などの元々あった症状が、日常変動の範囲を超えて急激に起こること。またそれによって定期的な治療を変更せざるを得なくなる事象」と定義されています。
このように、急性増悪を起こすと、患者さんのQOL(生活の質)は著しく低下してしまいます。また急性増悪を繰り返しCOPDが悪化すると、いずれ自力の呼吸では酸素が十分にまかなえず、「在宅酸素療法」が必要となってしまいます。そのため、COPDの患者さんは、普段から感染症などに注意して、急性増悪をおこさないようにすることがとても大事なのです。

COPDと合併症

図4:COPDの三大課題COPDの課題としては、現在大きな問題が三つあります。前述した「無治療での経過」と「急性増悪」の問題に加えて、三つ目が「合併症」の問題です(図4)。

COPDの患者さんの多くは、複数の病気を合併していることが多いのです。たとえばCOPD患者さんが亡くなる原因の三分の二は心臓病とがんです。COPDそのものの悪化で亡くなる方は三分の一に過ぎないのです。
COPDは、特に心臓病(心不全、高血圧や不整脈など)や肺がんを合併しやすく、他にも骨粗鬆症、動脈硬化、うつ病など、さまざまな疾患を合併することが知られています。これはCOPDに限りませんが、生活習慣病の多くは単独では発症せず、様々な病気を合併しやすいのです。

COPDの検査と診断

COPDの診断でもっとも重要なのは、スパイロメトリー検査(呼吸機能検査)です。スパイロメトリーでは、主に「1秒率(FEV1.0%)」という値を見ます。では、1秒率とはどのような数値なのでしょうか?
スパイロメトリーでは、下図のような機器を用いて、最大に空気を吸いきった状態から、思い切り一気に吐き出します。この時の肺活量を「努力性肺活量」と言います。1秒率とは、努力性肺活量のうち、最初の1秒間で吐き出される呼吸量の割合を指します(図5)。たとえば努力性肺活量が3500mlで、そのうち最初の1秒間に呼出される量が2600mlとしますと、1秒率は2600÷3500で74%になります。

図5:スパイロメトリーと一秒率

COPDでは肺胞や気道が障害されることで肺全体に閉塞性の気流制限が生じます。そのため、息を吐き出しにくくなり、1秒率が下がるのです。COPDの診断基準の一つとして、1秒率が「70%未満」であることがあげられています。
また、呼吸機能検査以外にも胸部X線や胸部CT検査によって、診断や進行度の評価を行います。たとえば肺胞が破壊されると肺の過膨張が起きる結果、空気が充満してX線上は透過性が亢進します。またCTによって、肺胞の破壊程度などを見ることができます。(図6)。

図6:正常な肺(左)とCOPD肺(右:肺胞破壊により空気透過性が亢進)

COPD治療の目的

一つは急性増悪を起こさないようにすることです。また、肺機能がそれ以上悪化するのを防ぐことや、「息切れ」を楽にして毎日の生活を快適にすることもあります。さらに、入院はお金がかかりますので、入院をしなくても済むようにすることや、日常の活動性が低下するのを防ぎ、寝たきりを防止することも大事な治療目標になります。これらを総合的に実施するためには、医師の治療だけでは不十分で、運動療法や食事療法など、生活全般にわたって治療を行う必要があるのです。そのため、当クリニックには管理栄養士が個別に食事指導も行っております。

COPDの治療で大事なこと

さて、COPD患者さんの9割が喫煙者であるため、治療上最も重要なステップは禁煙になります。喫煙者には「完全禁煙」を徹底してもらいます。そのため、当クリニックでは禁煙外来も行っています。方法はいくつかありますが、たとえば現在では「チャンピックス」という飲み薬を使用しながら、体をニコチン依存からの脱却を目指します。
COPDの治療では、患者さんにきちんと病気の説明をすることが非常に大切です。たとえば、COPDの治療では「吸入薬」を用いることが多いのですが、吸入器はメーカーによって形が違います。患者さんに丁寧に使用方法を説明する必要があるのです。当クリニックでは近隣の調剤薬局と協力して、薬剤師が当クリニックと同じ方法で吸入薬の使用方法を指導することが出来るように、定期的に勉強会を開いています。
COPDの治療では、運動療法と食事療法も非常に大事です。一般的に、COPDの患者さんは息切れがつらいため、運動する意欲が低下してしまいますが、そのままでは寝たきりの状態になってしまうので、心機能に注意しながら慎重に運動を行う必要があります。当クリニックでは現在200名の患者さんが在宅酸素療法を行っていますが、寝たきりを防止するためにたとえば自宅にサイクリングマシーンを購入してもらうなど、一人ひとりきめ細やかに、さまざまな方法を提案し運動を実施してもらいます。
同時に食事療法も大切です。糖尿病と違い、COPDの場合はやせてしまう方が非常に多いのです。やせた状態で運動をするとさらにやせてしまいますので、栄養士とともに、どうやってバランスよく体重を増やしていただくかということをそれぞれの患者さんに対して考えます。
そして、非常に大切な治療として、「急性増悪の予防」があります。

急性増悪は風邪がきっかけになることが多いため、風邪をひいたときの初期治療が大事です。基本的には、COPDの患者さんが風邪をひいた場合は、48時間以内に抗生物質などの治療を開始する必要があります。
そのためには当クリニックと患者さんのかかりつけの診療所との間で十分な医療連携が取れている必要があります。診療所の先生には、当クリニックから、「このような場合はこのような治療を行ってください」という手紙と一緒に患者さんの診療情報を提供しています。これまで700名以上の在宅酸素療法の患者さんを診ていますが、患者さんが当クリニックまで来られている間は診療所の先生にバックアップしていただき、反対に、当クリニックまで患者さんが来られなくなると、今度はわれわれが診療所の先生をバックアップするのです。COPDの予防、治療にはこのような医療連携の徹底が大事なのです。
急性増悪の具体的な治療としては、抗生物質と気管支拡張薬、そしてステロイドホルモン薬の3剤による治療が中心となりますが、使用する量は多すぎても少なすぎても良くありません。また、治療開始の時期が早すぎても遅すぎても治療効果を損ねてしまいます。いつ治療薬の摂取を中止するか、ということも非常に大事なポイントです。治療薬の使い方は専門的になりますので、診療所の先生とは、緊密に連絡を取り合って治療にあたります。
また、すべての患者さんにとってインフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種が重要となります。

COPDの最新のトピックについて

現在、当クリニックと理化学研究所で共同研究を行い、COPDの急性増悪を抑制する新規治療薬の開発を行っています。既に動物実験では成功しており、次は臨床試験を目指しています。現在、急性増悪時の治療薬はステロイドしかありませんので、本薬の開発によってCOPDに苦しむ患者さんにより有効な選択肢を提供出来ればと考えています。

また、当クリニックの石井医師が行っているのがCOPDの遺伝子研究です。現在、COPDになる方は喫煙者の15%のみです。なぜCOPDになる方とならない方がいるのか?それについて臨床研究を行っております。この発症にかかわる遺伝子の違いを見つけることは、将来の新しい治療への大きな足掛かりとなります。

基礎研究以外では、患者さんに対して、どのようにCOPDの教育を行うかについてLINQという教育方法を開発し、レベルの高い患者教育を実施しています。また、厚生労働省の研究班として、震災で被災したCOPDの患者さんについての分析研究を行い、災害時におけるCOPD患者の対策マニュアルを、東北大学と岩手医科大学と共同で作成しています。

呼吸ケアクリニックにおける取り組みについて

大切なことは、一人ひとりの患者さんに対してきめ細かい対応を行うことです。たとえば、外来でつらそうだった方には、翌日当クリニックから電話をかけ患者さんの状態を確認するようにしています。また、医師のみならず、看護師もCOPDという病気の全貌を患者さんにわかりやすく説明出来るようにしています。COPDの病態から進行する過程や合併症について、また、なぜ苦しくなるのかなどのメカニズム、これらを完璧に説明出来るようにするには日頃のスタッフ教育がとても大切です。常に高い専門性に裏付けされた「質の高い診療レベル」を維持することで、患者さんに選んでいただくように努力しています。おかげで10年間に診療した患者さんは1万1,000人を超え、47都道府県全てから、さらには海外からの患者さんもいらっしゃいます。

ハード面は機器を取りそろえれば充実させられますが、ソフト面は教育なくしては決して充実させることは出来ません。ですからわれわれはスタッフ教育など、高い専門性を有する「ソフト面」を非常に重視しています。生活習慣病の治療ではこれが大切なことです。

そして最後に、COPDに関しては、当クリニックからさまざまなメディアを通じ、全国に向けて情報を発信するという啓蒙活動を積極的に行っております。これは開設以来、一貫して心がけていることです。

近年増加の一途をたどり、生活習慣病としての対策が問題となっているCOPD、当クリニックでは、増え続ける患者さんの期待に応えるべく、最高の施設であるよう努力を続けます。

(この記事は2013年7月取材時点の情報です)

 

こちらの記事は「意気健康 06秋号」の生活習慣病特集に掲載されたものです。