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学校法人日本医科大学

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がん特集  がんの統計と疫学

今の時代、がん(悪性腫瘍、悪性新生物)は、私たちの生活から切り離せない病気になりました。1981年以来、がんは日本人の死因第一位になっており、年間69万人の方が新たにがんになり、年間35万人の方ががんで亡くなっています。日本医科大学Webマガジンの第三回テーマは、がん。経験豊富な専門医師による解説をまじえて、家族のために知っておきたい医学知識という視点でお伝えします。


Webマガジン 『がん特集』Part.1 がんの統計・疫学 日本医科大学付属病院緩和ケア部長 中西 一浩<br />

日本人の1年間の死亡者数は119万人。そのうち、年間35万人の方ががんで亡くなっています。実に3人に1人の方が、がんでなくなっている事になります。またこれから迎える超高齢社会では、がんを患う患者さんが今よりも増える事が予想され、がんは私たちにとってより身近になっていきます。これからは誰もが一度は、家族や自分自身にがんを経験する時代です。その一方で、近年の医療技術の進歩によってがんの予防法、診断法、治療法はおおきく改善しました。以前であれば亡くなられていたかもしれない多くの方が早期発見や早期治療によって助かるようになってきました。

そこで、Webマガジンでは、今回から5回にかけて、がんに関するさまざまな知識を、自分や家族の為に知っておきたい医学知識という視点でお伝えしていきます。今回のPart. 1では、がんに関する基本的な情報として統計・疫学を中心に日本医科大学付属病院がん診療センター長の宮下正夫教授(みやしたまさお:日本医科大学外科学教授)にお伺いいたしました。

1. がんの患者数は推定150万人以上

現在の日本で何人の方ががんを患っているかご存知でしょうか?

主な病気の総患者数、がん患者数の年次推移、主な部位別のがん患者数

平成20年の厚生労働省患者調査によると、がんにより継続的に医療を受けている患者さんは、推定150万人以上にのぼります。日本の人口が1億2800万人と言われており、日本人の100人に1人以上が、がんのために医療が必要になっています。がんは、高血圧、歯の病気、糖尿病に次いで、我が国で4番目に多い病気なのです(図1)。しかも、がんの患者数は年々増えています。人口の高齢化がすすむにつれて、平成2年には75万人だった患者数が、この20年で実に2倍も増えました(図2)。以前と比べると、がんは私たちにとってずっと身近になっています。

それでは、がんの中でどの部位のがんが多いのでしょうか?患者調査によると、結腸と直腸を合わせた「大腸」のがん患者数が23万人でもっとも多く、それに続いて、胃がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、肝臓がん、子宮がん、となっています(図3)。

ちなみに、日本医科大学付属病院における2010年度の部位別がん登録によると、当院で診療されているもっとも多いがんは肺がんと大腸がんで、それぞれがん全体の11.3%でした。第三位以降は前立腺がん(11.1%)、胃がん(9.5%)、乳がん(7.6%)、脳のがん(頭蓋内腫瘍6.1%)、肝臓がん(4.8%)、甲状腺がん(4.3%)、子宮頚がん(4.1%)、と続いています。また、男女別で見た場合、当院では男性で最も多いがんは前立腺がんで、男性のがん全体の18.8%を占めていました。男性のがん患者さんのおよそ5人に1人が前立腺がんの患者さんということになります。前立腺がんは近年非常に増えてきているがんで、米国では男性のがんではもっとも多く、特に黒人男性に多いとされています。一方、当院の女性で多いがんトップ3は、乳がん(18.3%)、子宮頚がん(10.2%)、大腸がん(9.7%)となっています。乳がんもこの20年で増加しているがんです。乳がんは年齢と共になりやすくなり、アジア系やヒスパニック系と比べると、白人女性と黒人女性がよりなりやすいとされています。

2. 1年間で新たにがんになる人数、罹患数と罹患率

がん罹患率の年次推移「罹患数」や「罹患率」ということばを聞いたことはありますか?
がんの罹患数というのは、ある集団で一定の期間(例えば1年間)に、新たにがんと診断された方の数です。国立がん研究センターの地域がん登録全国推計値によると、平成18年にわが国で新たにがんと診断された方は、69万人に上りました。一方、がんの罹患率というのは、がんの罹患数を集団の人口で割った値で、通常は人口10万人中、何人が新たに診断されたか、で表します。わが国では、平成18年の時点で男性のがん罹患率は642、女性は448で、男性が女性に比べて1年間で1.4倍多くがんと診断されています。

罹患率にはどのような意味があるのでしょうか?罹患率というのはある一定期間(たとえば1年間)に新たに病気と診断された患者数を測定します。なので、ある病気の罹患率の変化を、年を追って観察することで、その病気になるリスクがどう変化しているかが分かり、またその変化に及ぼす「原因」について考える事が出来るのです。たとえばAという病気の罹患率が、2000年には50だったのが、2011年には75に上昇したとします。これは、Aという病気になるリスクが、この10年間でなんらかの原因によって、増加したことになります。なので、罹患率の変化をみることで、病気を増やす原因となった新たな要因についての検討が出来るようになるのです。

ちなみに、がん全体の罹患率は、特に男性の場合はこの20年で2倍になっています(図4)。さらに図4から、この20年で男女ともにがんと診断される方が増加していることがわかります。がんの罹患率が増えている原因としては、人口の高齢化、食生活の欧米化、診断技術の進歩、などが主な原因として考えられています。

罹患率全体に占める部位別がんの割合

それでは、がんのなかでもどの部位のがんが近年増えているのでしょうか?図5は、男性における、がんの罹患率全体に占める各部位の割合を、平成2年と平成18年の2点で比較したものです。平成2年も平成18年も罹患率がもっとも高いのは胃がんです。ただし、この16年で全体に占める胃がんの割合はおおきく減少しました(28.2%➡19.8%)。一方で、男性では前立腺がん、大腸がん、肺がんが大きく増加しています。特に前立腺がんはこの16年で3倍以上の増加です。また、図6は女性の場合ですが、女性では胃がんが減少するとともに、乳がん、肺がん、大腸がんの割合が増加しています。特にこの20年で、乳がんの罹患率は胃がんを超え第一位になっています。

3. 1年間でがんにより亡くなる人数、死亡数と死亡率

図7死因別の割合、図8部位別がんの割合

図9男性の部位別がん死亡率、図10女性の部位別がん死亡率冒頭にも記したように、がんによる死亡者数は現在35万人を超えていて、1981年以来、日本人の死因の第一位になっています。平成22年人口動態統計の概況によると、平成22年の日本人総死亡数は119万人で、そのうち35万人(30%)ががんによるものでした。3人に1人ががんでなくなっているのです。ちなみに、死因の第2位以下は19万人(16%)の心疾患、12万人(10%)の脳血管疾患と肺炎、4.5万人(4%)の老衰などとなっており、順位は男女とも同じになっています(図7)。それでは、現在どの部位のがんがもっとも死亡者数が多いのでしょうか?同じ調査によると、35万人のがんによる死亡数のうち、最も死亡数が多いのは約7万人(20%)で肺がんでした(図8)。また、第二位以下は胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、と消化器系のがんが続きます。一方、1年間に人口10万人当たり何人が死亡するか(死亡率)をがんの部位別で見てみると、男性は肺がん、女性は大腸がんが最も高いことがわかります(図9、図10)。また肺がん、大腸がん、胃がんなど、多くのがんで男性の方が女性に比べて死亡率が高い事がわかります。一方で前立腺がんや乳がんなど、患者数や罹患数は多いのに、死亡率が低いがんがあることもわかります。

4. がんと診断されてから生存する比率、生存率

がんによっては罹患率が高いにも関わらず死亡率が低いがんもあれば、逆に治療が難しく死亡率の高いがんもあります。そこで、がんと診断されてから、どれだけ治療で治せるか(予後)を表す指標として、生存率という指標があります。一般的には5年相対生存率という指標を用いますが、これはがんと診断されてから5年後にどれだけの患者数が生存しているかの割合を、日本人全体で5年後にどれだけ生存しているかの割合と比較する指標です。この5年相対生存率をがんの各部位で男女別に比較したものが図11と図12です(全国がん罹患モニタリング集計 2000-2002年生存率報告(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2011。独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書)のデータより作成)。5年相対生存率では、値が100に近いほど治療により治る可能性が高く、値が0に近いほど治療が難しいことを意味します。

男女別5年相対生存率

そして図からもわかるように、同じがんといっても、悪さの度合いが違います。その原因の一つはがんが進行するスピードの違いです。例えば膵臓がん、肺がん、食道がんといったがんは、進行するスピードがとても速く、乗り物でたとえると飛行機や新幹線になります。他方で前立腺がんや甲状腺がんなどはがんが進行するスピードが比較的遅く、新幹線と比べると各駅停車になります。がんが進行するスピードが速いと、発見されたときには、すでに手術が難しいほど大きくなっていることや、他の臓器に転移していることもあり、そのため治療が難しくなり生存率も下がってしまうのです。

一方、この生存率という指標は、集団としてのがん全体を統計的にみる指標ですので、個々のケースにおいてはがんの進行度、年齢、合併症の有無等の様々な要因によって変わってきます。

5. がんにかかる費用、がんの医療費

国民医療費とは、医療機関などで保険診療の対象となる病気の治療にかかった費用を推計したもので、平成21年度は36兆円でした。その国民医療費の中で、実際に医科診療に要した分、すなわち歯科診療や薬局調剤に要した分を除いた医療費を、「一般診療医療費」といいますが、平成21年度は26兆円でした。さて、この一般診療医療費に占めるがんの医療費は何%だと思いますか?厚生労働省の平成21年度国民医療費の概況によると、がんの医療費は約3兆円でした。なので、一般診療医療費の11%をがんが占めている事になります。ちなみに、もっとも医療費を要する病気は循環器系の病気で5.5兆円(21%)、第二位ががんの3兆円(11%)、第三位以降は呼吸器系の病気、筋骨格系の病気、腎尿路生殖器系の病気、となっています(図13)。一方、がんの中で見ますと、大腸がんが3兆円のうち4800億円を占めて第一位、以下肺がん、胃癌、乳がん、となっています(図14)。

図13:一般診療医療費における上位5疾患の医療費がん医療費に占める部位別上位5疾患

--次回は、がん予防や検査の目的について、引き続き、宮下正夫先生にお話を伺います。是非、ご覧ください。

プロフィール:日本医科大学付属病院がん診療センター長の宮下正夫教授 宮下 正夫

日本医科大学付属病院がん診療センター

こちらの記事は「意気健康 01夏号」のがん特集に掲載されたものです。