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学校法人日本医科大学

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がん特集  肺がん

Webマガジン:がん特集では、がんに関するさまざまな知識を、自分や家族の為に知っておきたい医学知識という視点でお伝えします。Part. 1〜3では、がんに関する基本的な情報として、がん全般の統計・疫学情報、がんの発生原因や予防法、がんの早期発見に欠かせないがん検診について、その意義や内容をお伝えしました。Part.4からは、細かく分類されるがんについて、その専門的な知識をお伝えしています。今回は肺がんです。

Webマガジン 『がん特集』Part.7 肺がん 日本医科大学教授 弦間 昭彦

肺がんは、わが国のがん死亡原因の1位を占めており、現状ではがん死亡者数35万人のうち、約5人に1人が肺がんで亡くなっています。一方で、ここ数年、肺がん患者さんにおける遺伝子変異などの解析が日進月歩の勢いで進み、新しい抗がん剤治療の可能性などが期待されています。今回のwebマガジンでは、今後期待される新たな肺がん医療について、日本医科大学付属病院呼吸器内科部長の弦間 昭彦教授にお話をお聞きしました。

肺がんの統計について

図1肺胞のイメージ肺がんと診断される方は、近年男女ともに増え続けています。男性では、胃がんが減っている代わりに、大腸がん、前立腺がんとともに肺がんが増えていますし、女性でも乳がん、大腸がんとともに肺がんになる方が増えています。また、がんに占める死亡者数に関しては、以前は胃がんによる死亡者数が最も多かったのですが、現在では男女ともに肺がんが死亡原因の1位を占めています。

一方、米国では古くから禁煙活動(タバコにかかる高率な税金、公共の場での禁煙など)が進んでいるため、1990年代以降は肺がんの死亡率が減少しました。たとえば、最近発表された論文によると、米国では禁煙活動の普及によって、1975年から2000年の間に、80万人余の方が、肺がんによる死亡を避けられた、という研究結果も出ています(Impact of Reduced Tobacco Smoking on Lung Cancer Mortality in the United States During 1975–2000. Moolgavkar, et at. J Natl Cancer Inst. 2012 April 4; 104(7): 541–548.)。

残念ながら、日本ではまだそういう傾向は見られていません。その意味では、日本では禁煙活動がまだ不十分であると考えられます。

肺がんによる死亡率が高い原因としては、肺の臓器特性が大きく関わっていると考えられます。肺という組織は、肺胞と呼ばれる空洞を有する細く小さい組織で構成され、それらが蜂の巣のように連なっているため、肺の内部でがん細胞が浸潤しやすく転移もしやすいと考えられています。そのため、いわゆる早期がんと呼ばれる時期が短く、治療が難しい面があるのです(図1)。

肺がんの種類について

図2肺がんの分類

図3肺がんの主な発生部位肺がんは、細胞の組織型によって大きく4種類のタイプに分けられますが、まず、がん細胞の生物学的特性から、「小細胞がん」と「非小細胞がん」の二つに分類され、その後、非小細胞がんは更に3つのタイプ(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)、に分かれます(図2)。小細胞がんは、非小細胞に比べると、増殖のスピードが非常に速く、転移しやすい特性がありますが、肺がんに占める割合としては15%程度となっています。一方、非小細胞がんは、全体の85%を占め、発生部位や喫煙との関係など、タイプによって特徴が異なります(図3)。

肺がんの症状

肺がんの初期症状としては、発生部位により異なりますが、一般的には肺門部に近いがんでは、咳や血痰などがあります。一方、肺野型の抹消のがんでは、あまり症状が出ません。症状が進みがんが大きくなっていくと、それに伴いさまざまな症状が出ます。たとえば、がんが上大静脈を閉塞すると、顔や手がむくんできますし、パンコースト症候群といって、肺の上端部分にがんが広がると、神経が損傷を受け、声がかれたり、腕に痛みや麻痺が生じたりします。あるいは、腫瘍随伴症候群といって、がんそのものの浸潤ではなく、がんによって分泌されるホルモンなどによる症状もあり、特に小細胞がんは、イートン・ランバート症候群と呼ばれる、四肢の筋肉の脱力や自律神経の障害などの神経症状を生じることが分かっています。

患者さんが当科を紹介されるきっかけとしては、患者さん自身が咳や血痰に気づき受診される場合もありますが、現在では肺がん検診などが行われているため、症状が出る前の状態、すなわち胸部レントゲン写真で指摘された方や、前医の検査で痰にがん細胞が見られた方などの方が紹介されてきます。いずれにしましても、治りにくい咳や痰、血痰などがある場合は、肺がん以外にも肺結核症やその他の肺疾患の可能性もあるため、ぜひ呼吸器内科を受診してほしいと思います。

肺がんの検査

呼吸器科では、肺がんだけに関わらず、何かしらの呼吸器疾患が疑われる場合は、まずは胸部の単純レントゲン写真を行い、その所見を見たうえで、場合によってはCTなどの画像検査を試みます。そして、なるべく患者さんの負担にならないような検査を行い、診断をつけます。肺がんが疑われた場合は、患者さんに痰をとってもらい(喀痰細胞診検査)、あるいは気管支鏡という特殊な内視鏡を用いて実際に患者さんの肺の中のがんが疑われる場所の組織や細胞を取って(気管支鏡肺生検)、それらを顕微鏡で観察して、がん細胞の有無や種類についての診断をします。

図4 肺がんのレントゲン写真、CT画像ちなみに、最近米国では、肺がんに対してハイリスクの方(55歳以上75歳未満の喫煙者)には、検診でCTを行うことを、関連学会が合同で勧めています(Benefits and Harms of CT Screening for Lung Cancer A Systematic Review, JAMA, 2418-2429 June 13, 2012—Vol. 307, No. 22)。胸部レントゲン写真に比べると、CTのほうが、より小さいがんが見つかりやすく、早期がんの状態で見つけることが出来るためです。一方で、検査に伴う被爆量は単純レントゲン写真に比べるとCTの方が多く、また経済的にも高価なため、公的な肺がん検診を実施している日本では、CTによる検診は現在行われていません。

一方、喫煙指数(Brinkman Index:1日の平均喫煙本数×喫煙年数)と呼ばれる値が400を超える人に対しては、肺がんになるリスクが高まることが知られています。そのため、わが国の公的がん検診においてはそれらの人をハイリスク喫煙者とし、従来の胸部レントゲン検査に加えて、喀痰細胞診を同時に行っています。ただし、受動喫煙者に関しては、検診においてはまだ胸部レントゲン検査のみしか行われておらず、受動喫煙者をハイリスクと見なすかどうかは、今後の課題となっています。

また、公的検診には含まれていませんが、人間ドックなどでは、PET(ポジトロン断層法)という方法で検診を受ける方もいます。PETは肺がんに限らず、全身のどこかにがんあれば、1cm以上のものは検出できます。あるいは、最近では超音波検査を使用した気管支鏡検査も進んでいます。この方法では、これまで発見が難しかった縦隔リンパ節や、小さな腫瘍などに対しても見つけることが可能になっています。

肺がんの治療

肺がんの治療には、大きく外科的手術、放射線療法、抗がん剤療法(化学療法)の3つの治療法があり、それぞれ、がんの種類やステージ(病期)などによって治療法が異なります。小細胞がんの場合は抗がん剤治療が中心ですが、がんが限局している極めて早期の場合は、手術と抗がん剤、放射線を組みあわせた治療を行うこともあります。一方、非小細胞がんでは、Ⅰ期とⅡ期は手術が基本となります。Ⅲ期になりますと、リンパ節への転移などの状況によって、手術のみの場合、手術と抗がん剤を併用する場合、放射線療法を行う場合など、さまざまな治療法のパターンが考えられます。また最近では、Ⅱ期やⅢ期には、手術後の術後化学療法が良い結果をもたらすことが臨床試験の結果などから分かりつつあります。最後にⅣ期では、手術は行わず、抗がん剤治療や放射線治療が行われます。

治療は、手術の場合は入院して行います。また、抗がん剤の場合は、まず入院していただき患者さん個々人への対応をし、その後は外来で治療を行います。外来治療の場合は、日常生活は普通に送れますし、当院のような「がん拠点病院」の多くは、外来の化学療法に関して専門スタッフをそろえて安全対策とって実施しています。

手術後の後遺症として多いものには、呼吸不全があります。特に肺がんの場合はもともとタバコを吸われている方が多く、そのため慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)などを合併している場合が多いため、手術後に肺を切除することで、合併症が残る場合もあります。また抗がん剤については、副作用として、長期的には骨髄がダメージ受けることがあります。特に若い方の場合は、生殖細胞に影響出ることもあります。また最近は少なくなりましたが、食欲不振や吐き気などの消化器毒性や、手足のしびれなど、抹消神経障害が出現する場合はあります。治療では、これらの副作用を考慮しながら、慎重に行います。この副作用対策は治療効果を引き出す重要な医療技術であり日本医科大学は我が国のリーダー的役割を果たしています。

新しい抗がん剤治療について

図5肺がんで変異が分かっている遺伝子

この数年で、抗がん剤治療に関しては、非常に進歩しました。たとえば、われわれの教室が、東北大、北大、埼玉医大と共に中心となって実施した大規模臨床試験では、イレッサ(ゲフェチニブ)という、2002年に出た新しいタイプの抗がん剤(分子標的薬)を、EFGR(epidermal growth factor receptor)という遺伝子に変異がある未治療の進行非小細胞肺がん患者さんに用いると、再発までの期間が従来の抗がん剤に比べて2倍延びることが分かりました。この結果は、著名な医学雑誌であるNew England Journal of Medicineに報告されました(Gefitinib or chemotherapy for non-small-cell lung cancer with mutated EGFR. N Engl J Med. 2010 Jun 24; 362 (25): 2380-8)。また、わが国においても、本結果によりイレッサが進行性の非小細胞がんに対する効果的な治療になるとして、新聞等のメデイアで取り上げられました(「肺がん、イレッサで生存期間2倍 特定の遺伝子変異に効果」:2010/6/24付日本経済新聞 朝刊)。そのため、この結果に基づき肺がんの診療ガイドラインが2010 年に新たに改訂され、Ⅳ期の未治療非小細胞がん患者さんには、EFGR遺伝子変異が陽性であれば、イレッサを第一選択薬として用いることが推奨されています。一方で、この薬は間質性肺炎という肺が線維化してかたくなってしまう副作用がありますので、専門家の基で、慎重に治療を行う必要があります。

また、他にも最近では非小細胞肺がんでALKという遺伝子に変異があることが自治医科大学で発見され、その後、ALK遺伝子に変異を有する非小細胞肺がんの患者さんに対して、クリゾチニブという既存のALK阻害薬を用いると、非常に良く効くことが臨床試験で証明されました。そのため、米国では2011年にFDA(米国食品医薬局)で承認され、日本でも本年3月に承認されました。ALK遺伝子に変異がある患者さんは肺がん患者さんの2〜5%と言われています。一方で、この薬もイレッサ同様、間質性肺炎の副作用の可能性が指摘されていて、慎重な投与が必要となります。

上記のEGFR遺伝子やALK遺伝子以外にも、今年になり新たに肺がんで、RET遺伝子とROS1遺伝子の変異が、がん研究会と自治医科大学の研究によって見つかりました。ALK同様、これらの阻害薬はすでに存在するため、今後は遺伝子変異が陽性の患者さんに対しての特効薬として使われることが期待されます。日本医科大学では、このような新たな治療法に結びつく遺伝子解析は行う方針で体制を整えています。

このように、遺伝子変異の解析があまりに早く進むため、肺がん治療の診療ガイドラインの改訂が追いつかない状況です。そのため、これまでは本として出版されていたガイドラインですが、現在ではネット上で改訂に対応しています。

近年になり、遺伝子変異がある肺がんが次々と見つかり、今後も見つかる可能性があります。そのため、これまでは従来の抗がん剤治療しかなかった分野で、新たな治療法、それも個々のがんに対応した「個別化治療」の可能性も生まれてきました。一方で、これらのがん治療の問題として、耐性の問題があり、だいたい2年ほどで、治療薬に対して耐性が出来てしまうという課題があります。ただ、そのような耐性に対しても新たな薬も開発されるようになってきています。私としては、自分の在任期間中の目的として、薬剤でもう少しで治る可能性のあるがんについては、治せるようにしたいと考えています。そのための方法としては、抗がん剤の組み合わせが大事だと考えています。

治療法決定のプロセス

肺がんと診断されますと、基本的には転移の有無などを調べて、手術が必要であれば外科、内科治療が必要であれば内科、というように、迅速に対応します。また難しい症例に関しては、外科、内科、病理部、放射線科の合同カンファレンスなどを行い、方針を決定していきます。

一方、実際に治療法を決定する際は、インフォームドコンセントといって、患者さんに告知をし、治療法の可能性を提示した上で、患者さんご自身に治療方法を選択して頂く必要があります。ただし、患者さんにお示しする治療成績などの統計データは、あくまで平均的なものとして、一つの目安として考えてもらいます。先述したように、これだけ肺がんによって遺伝子変異など、個人差があることが分かってきていますので、患者さんに対しては、データはあくまで全体の平均であって、個々人で違うことをお話し、治療にはさまざまなバリエーションがあるということをお話しします。そうでないと、希望がなくなり、誤解されてしまう危惧があります。

また、医療者側の情報伝達スキルというものも重要です。その点、当院には医療コミュニケーションスキルの専門家がいるため、他のがん拠点病院に比べても充実しています。

一般的にインフォームドコンセントでは、医療者側が選択肢を並べて、患者さんに選んでもらう、ということが多いのですが、やはりわれわれはプロとして、いくつかの選択肢の中から、その患者さんご自身にとって、どの治療法を最も勧められるのか、ということをしっかりと伝える必要があると思います。その情報を含めて患者さんが選択する、ということが必要だと思っています。

セカンドオピニオンについて

治療法を選択する上で、患者さんがセカンドオピニオンを他院に求めることも大事だと思います。一方で、肺がんという病気は進行が早いので、あまり治療まで時間をかけすぎてしまうと、その間に進行して悪化してしまいます。ですから、出来れば、一か所程度にした方が良いと思います。特にがん拠点病院であれば、ある程度、治療法に関しては標準化ができています。ですから、一般的な肺がんの症例に対しては、大きな治療法に差はないと思います。ただし、一般的ではない、難しい症例の場合は、セカンドオピニオンのメリットは大きいと思います。当院では、合併症のある肺がん治療に関しては特に力を入れており、合併症をお持ちの難しい患者さんの紹介を受けることが多いのが現状です。

肺がんは、以前は治療法も従来のものしかなく、難しい病気であったと思います。一方で、近年の遺伝子変異解析などによって、肺がん治療は新たなステージを迎えていると思われます。今後、さらに多くの肺がんの生物学的特性が理解されることによって、一人ひとりの患者さんに対して、よりきめ細かい治療が行われることが期待されます。

(この記事は2012年6月取材時点の情報です)

プロフィール:弦間昭彦 先生

こちらの記事は「意気健康 02秋号」のがん特集に掲載されたものです。