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学校法人日本医科大学

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がん特集  胃がん

Part.5 胃がん

胃がんは、かつては日本でもっとも患者数が多く、死亡率も高いがんでした。現在では早期発見も進み、死亡率は肺がんについで2番目ですが、中高年をはじめ、まだまだ患者数の多いがんです。今回のwebマガジンでは、日本が世界の最先端にいるという胃がん医療について、日本医科大学付属病院藤田 逸郎先生に聞きました。

1.日本における胃がん患者数の変化

胃がん罹患率近年、胃がんが減ってきているのは事実です。罹患率といって、1年間に新たにがんと診断される患者さんについては、がん全体としては、男女とも一貫した増加傾向にあります。しかし、部位別の内訳では、男性では肺がん、大腸がん、前立腺がんの割合が増加し、女性では肺がん、大腸がん、乳がんの割合が増加した一方で、胃がんは1980年代には全がん罹患率のうち男性で37%、女性で25%を占めていましたが、その割合は減少の一途をたどり、2006年には男性20%、女性13%程度まで減少しました。ですから、全がんに占める割合は減ってきています。

ただし、現在でも男性では胃がんが1番多く診断されていますし、女性でも、乳がん、大腸がんについで3番目に多く診断されています。ですから、胃がんは過去に比べると罹患率は減ってはいるものの、胃がんの発生数は依然高く、がん全体に占める割合はまだ非常に大きいと言えます。日本は世界的に見ても胃がんになる率が非常に高い国であり、胃がん医療においては、日本は世界の最先端にいると言ってよいと思います。

世界では胃がんが過去に比べて減っている理由ですが、本当の理由はまだ分かっていません。ただ、胃がんという病気の原因やプロセスが、以前に比べて研究が進みはっきりしてきたこと、またピロリ菌、塩分、タバコなど、リスク要因や予防効果が理解されてきたことなどは、大きく関係していると考えられます。

2.日本人と胃がんについて

がん死亡数に占める部位別がんの割合日本人は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染率が高いため、胃がんになりやすいと考えられています。ピロリ菌は経口感染します。従って親から子供、家族へ感染する可能性もあり注意が必要です。お母さんから赤ちゃんへの口移しなどにも注意する必要があるかもしれません。上下水道整備など環境の改善により感染率は若い人ほど低くなっていますが、それでも現在日本人中高年の約50%程度の人が感染しているといわれています。感染して1、2年で胃がんになることはないですが、何十年もピロリ菌に暴露され続けると将来胃がんが発生する可能性があります。

ピロリ菌に感染しているかどうかは、検査で分かります。検査方法にはいくつかあって、便中のピロリ菌の有無を見る検査(糞便中抗原測定)、血液中のピロリ菌に対する抗体の有無を見る検査(血液検査)、薬を飲んだ後の呼気中の二酸化炭素量の変化を見る検査(尿素呼気試験)、そして実際にピロリ菌やアンモニアの有無を調べる検査(内視鏡:迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法)、など様々な検査があります。

ただし、ピロリ菌が陽性であれば必ず胃がんになるのはなくて、ピロリ菌以外のいろいろな要素と合わせて胃がんが発生すると考えられています。たとえば、ピロリ菌以外では塩分の過剰摂取が胃がんの大きな要因として知られていて、高塩分の食品(漬け物、塩辛等)を多く取る秋田、山形、新潟などでは、九州や沖縄などの南の地域と比べると、胃がんの発症率が高いことが分かっています。

現在では、胃がんの原因としては、ピロリ菌がもっとも重要で、ピロリ菌と塩分が合わさると胃がんになる率が高くなると考えられています。その理由としては、過剰な塩分によって胃の粘膜が荒らされて、ピロリ菌による胃粘膜への障害が強く長く続くと言われています。つまり、塩分はピロリ菌に都合の良い環境を作り出す役割を担っていて、 直接的にはピロリ菌が胃がんの原因と考えられています。他にも、胃がんの原因として喫煙などの生活習慣も関係しているかもしれません。ですから、胃がんの予防としては、ピロリ菌に感染しているか調べ、感染があれば除菌することが重要と考えます。ただし、検査、治療には制約があり(ピロリ菌に起因する病気以外は保険適応がありません)、担当の先生に相談する必要があります。同時に塩分や喫煙などの生活習慣の改善も重要と考えます。

3.胃がんの検査について

一般的な胃がん検診ではバリウムを用いたレントゲン検査を行います。ただし、大腸がん検診で用いられる簡単な便検査と違って、バリウムを飲む必要がありますし、多少とはいえ被爆のリスクもあるので、敬遠される傾向があります。そこで、それに代わる検査として最近行われつつあるのが、血液検査のペプシノーゲン検査です。これは血液中のペプシノーゲンIIに対するIの割合を見る検査ですが、これが陽性だと胃粘膜の萎縮が進んでいて胃がんの可能性があると考えられています。ですから、この検査を胃がんのスクリーニングとして行って、陽性であれば、つぎに内視鏡検査に進むことになります。一方で、ペプシノーゲン検査は簡単な検査ですが,萎縮と関係なく発症する未分化型腺がんが見逃されると言われています。ペプシノーゲン法はあくまでも胃の萎縮のマーカーであり、がんの特異的マーカーではありません。結果が陰性でも必ずしも癌がないということはできません。症状があれば内視鏡検査を受けるべきです。

ところで、胃がんというのは、乳がんのしこりなどと違って、自己検診が難しいがんです。胃の入り口や出口にがんが出来れば、症状が出ることもありますが、胃というのは非常に大きい臓器なので、そこで小さな異変が起きても気づかないことが多いのです。ですから、早期だと症状もないため、分かりづらいです。早期で発見される方の多くは定期的に検診を受けている方です。一方で、自覚症状がある方は内視鏡検査を行いますが、胃がんに特化した症状はないので、そのような方は、たとえば痛みとか食欲が急になくなって食べられなくなったなどの症状を訴えられます。胃がんの場合は進行していても症状がないこともありますので、定期的に検診を受けることが大事です。胃がんは好発年齢が40代以降なので、できれば40歳を超えたら一度は内視鏡検査を受けていただきたいですね。

ただし、まれに若くても胃がんになることはあります。当院で経験した例では一番若くて13歳でした。女性の場合は20代から発症することもありますが、若い女性のがんというのはちょっと特殊なタイプで、内視鏡でも表面的には一見何もないことがあります。とにかく年齢に関わらず、胸焼けや胃が痛い場合は、一度は検診や内視鏡検査を受けることをお勧めします。

内視鏡のペースとしては、一般的には40歳を超えたら年に一回。一度内視鏡を受けて何もないのであれば個人的には3年に一度くらいでかまわないと思っています。ただし、症状がある場合や、ピロリ菌がいる人は年に1回は診てもらいたですね。

胃がんと診断されたら、つぎは治療になりますが、一部の早期胃がんは内視鏡で治療することができます。しかし、内視鏡というのは、胃の表面を見るだけなので、胃壁の厚みや、がんがどの程度進行しているか、さらにはリンパ節転移の有無などは分かりません。ですから、腹部のCTを実施してがんの広がりや、転移の有無などを確認します。また、進行胃がんでは、切除可能か否かを判断するために胃透視を行い、胃の可動性や病変の広がりを評価し、手術術式決定のための参考とします。このように胃がんの治療と言っても、早期がんと進行がんでは治療方法が違いますので、必要な検査もそれに応じて行います。
ちなみに、胃がんの好発部位としては、胃を上中下で分けると、下のほう、胃の出口の方ですね。ただ若い女性だと、もうちょっと上の方になってきます。

4.胃がんの進行度について

がんの進行の程度を「病期」、または「ステージ」といいますが、大まかに分けるとⅠからⅣまで4段階あります。ステージを分ける基準としては三つあって、一つ目は、がんが胃の壁のどこまで深く浸潤しているか(深達度)、二つ目はリンパ節に転移しているか、そして三つ目は、他の臓器に遠隔転移しているかで、これらの組み合わせでステージが決まります(図1)。ステージⅠというのは、がんが粘膜・粘膜下層に留まっている早期のがんで、このうち、粘膜内にとどまっているがんは、内視鏡治療の可能性があります。逆に遠隔転移があるものは、ステージⅣとなり、これは手術だけではなく、集学的治療として、化学療法、免疫療法などを検討することになります。症状(出血や狭窄)がある場合は、姑息的治療として外科的切除や、痛みを和らげる緩和治療を行います。そしてステージⅠからⅢの多くは手術を行い、その後結果により化学療法を導入することになります。

受診される患者さんのうち、どのステージが多いというのは必ずしも一概には言えませんが、たまたま胃の痛みを感じて内視鏡でみたら早期の胃がんだった、ということもありますので、特に症状がある場合は、ぜひ一度は検診を、それも出来れば消化器専門の医療機関で内視鏡検査を受けていただきたいと思います。

胃がん進行度

5.胃がんの治療について

がんの進み方がんが胃の粘膜に留まってリンパ節転移のない分化型胃がんでは、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)と呼ばれる内視鏡治療が行われます。一方、ステージⅠでも、がんが表面よりも深く浸潤している場合や、リンパ節まで転移がある場合は、手術となります。簡単に言うと、がんが浅くてリンパ節や他の臓器に転移がなければ内視鏡治療。がんが深く大きくて、リンパ節に転移があれば手術による切除、他の臓器まで遠隔転移があれば化学療法、となります。また、ステージⅡ以上の患者さんでは、手術後に詳しい検査の結果(病理検査)により化学療法を行うこともあります。

手術後の化学療法については、一般的にはS-1という薬を補助化学療法として、術後1年ほど飲んでいただきます。目的としては、簡単に言うと、がんは手術できれいに切除したけれども、画像では確認できないミクロながん細胞レベルでは残っているかもしれないので、S-1で補助的にたたきましょう、ということです。

スケジュールとしては、4週間は毎日飲んでいただき、その後2週間休む。この4+2の6週間を1セットとして、1年間繰り返します。ただし薬の副作用が出る患者さん、これは個人差がありますので出る方と出ない方がいますが、たとえば血液中の白血球数が少なくなる場合や、貧血、肝機能が悪くなってしまう場合などがあります。また精神的に「抗がん剤を飲んでいる」ということだけで具合が悪くなる方もいらっしゃいます。このような場合は、副作用の状況を見ながら、2週間飲んで1週間休みの2+1の3週間1セットで行うこともあります。

補助化学療法の評価としては、定期的に血液検査を行い、がんに関連した腫瘍マーカーなどに異常値がないか確認し、約半年で一度CT検査を行い、それで問題なければ残りの半年間続けていただきます。もしCTで他臓器に転移が見つかった場合は、別の治療薬に変更して治療を行います。

さて診断から手術までの期間ですが、当院では2週間を一つの目安にしています。“がん”と告知され、また“手術を受ける”ということで、多くの患者さんは、精神的に不安になられます。「早く手術しないと病気が進んでしまう!」とパニックになられることもあります。この観点から、我々は1週間以内での評価、2週間で手術を基本方針としています。しかしながら最近はご高齢の患者さんが多く、合併症も多くみられます。安全に手術を行うためには、合併症に対する評価・治療も必要です。その際は内科的治療を優先します。この考え方は、関連各科の協力なくしてはなりたちません。最近では放射線科のご理解により、必要な場合は受診初日にCT検査が可能となり、治療方針を早期に決定することが可能となりました。これにより2-3週間以内の早期診断・早期治療が実現しました。手術を計画する時は、病気の評価とともに、患者さん本人、そしてご家族の病気に対する理解を深める時間も必要です。患者さんへの病気や治療の説明について、私は患者さん用のパンフレットを作成して利用しています。患者さんにとっては、がんと診断されるだけでも頭が真っ白になってしまいます。そのうえ手術となると、初めて聞くことも多く、説明を理解できないことが多いのですね。ですから、まずパンフレットを読んでいただいて、そこで分からないことがあったら聞いてください、というようにしています。ご家族の方にも病気や治療方針を理解していただく必要があるので、パンフレットに基づいてご説明するようにしています。

食事制限手術後の状況としては、当院の場合は通常手術の2日前に入院していただき、手術後は10日ほど入院していただきます。また、術後は4日目よりお水を飲んでいただき、5日目より流動食、そして7日目からは少量ですが普通の食事を食べて頂いています。ただ、食事開始後に、胃の中に食べ物が溜ってしまい、一時的になかなか食べられなくなる方がいます。また、手術で切除して胃が小さくなっているので、消化力が落ちて手術前に比べると量が食べられなくなる点も注意が必要です。一方、手術後の食事面については、基本的には栄養士さんの説明を聞いてもらって、それを守っていただきます。ただ、患者さんによっては栄養士さんにあれもだめ、これもだめ、と言われてしまうと、せっかく治療が成功したのに落ち込んでしまう方もいますので、私自身は、食事制限などはあまり強く言わないようにしています。ただ急いで食べると具合が悪くなるので、急いで食べることと噛まずに飲み込むのだけはやめてください、とお話しします。私としては、栄養士さんのお話と私の話を足して2で割ってもらえたらいいかなと思い患者さんにお話しします。
それと、治療後に特に注意していただきたいのは、定期的な通院と検査をおろそかにしないことです。とくに内視鏡治療や、手術でも胃を全部とってない場合は、胃がんの好発部位が残されている場合もありますので、残った胃からがんが出てきてしまう可能性もある訳です。ですから、そのような場合は、胃が残るメリットもある訳ですが、一方で新たな胃がんや転移・再発のリスクもあるため、しっかり治療後の検査を受けていくことが大事です。

6.胃がん治療の新しい流れ

これまで手術というと、通常は開腹手術を指していましたが、最近は臨床研究の段階ではありますが、早期の胃がんに対しては腹腔鏡手術という方法も始まっています。早期の胃がんではあるけれど内視鏡治療は難しい、といったがんに対して行われます。メリットとしては、開腹手術と違いお腹を上から下まで切る必要がないため、傷も小さくてすみますし、そうすると手術後の早い段階で歩くことも出来、術後障害のリスクも減らすことができます。ですから、これからは手術と言っても、がんの進行度によって、開腹手術と腹腔鏡手術の2通りの選択肢が出てきます。

手術については、将来的には腹腔鏡による手術が一般的になると思われます。あとはロボット手術などが今後進むと思われます。またセンチネルリンパ節生検と言って、がんが最初に到達するリンパ節を調べて、そこに転移がなければ、それ以降は切除しないで、必要な箇所だけ取りましょう、という縮小手術への流れがあります。

また化学療法について言うと、最近は胃がんに限らず、個人の性質にあった抗がん剤を使用する動き、いわゆるオーダーメイド医療の流れがあります。たとえば、ある抗がん剤がAさんのがんには効果がない、副作用が出やすい、ということが事前に分かれば、別の薬を使用することが出来る訳です。ですから、抗がん剤に対する感受性試験を行うことで、今回のがんはこの抗がん剤が効きやすいタイプなのかどうなのか、ということを判断できることになります。感受性試験の方法としては、現在は胃の組織を一部採取してきて、培養後に抗がん剤を投与して調べる方法をとっていますが、まだ臨床的には不十分な面もあります。ただし、今後はこのようなオーダーメイド医療がますます進んでいくことになると思います。

7.セカンドオピニオンについて

患者さんが治療内容に疑問をもたれる時は、セカンドオピニオンを積極的に勧めています。たとえば、明らかな遠隔転移がなくても、検査をしてみると、がんの広がりが広範囲で、血管を巻き込んでいることが分かり、仮に手術をしてもがんの一部を取り残す可能性が大きい場合があったとします。すると、そのような場合は遠隔転移がなくても、すなわちステージⅣでなくても、我々としては手術ではなく化学療法を術前に勧める場合があります。このように、我々はステージだけで治療方針を決定するのではなく、それ以外の要素や患者さんの健康状態なども含めて治療方針を決めていきます。一方で、患者さんはがんなのになぜすぐに手術しないのか、と思われることもあります。このような状況で患者さんが治療に対して不安に思う時は、他の先生の意見を聞くのはいいことですので、セカンドオピニオンを提案します。 また、逆に私の方にセカンドオピニオンに来られる患者さんに対してですが、私としては患者さんのお話や前医での診断結果などを検討した上で、あくまで自分であれば、純粋に病気をなおすためにどうするか、ということを考えて、お話しするようにしています。

(この記事は2012年6月取材時点の情報です)

 

こちらの記事は「意気健康 02秋号」のがん特集に掲載されたものです。